【視点・焦点】名護市長選 マスコミ調査と市民心理/竹中 明洋
名護市長選挙で自民党や公明党、日本維新の会が支援する渡具知武豊氏が現職の稲嶺進氏に勝利した。米軍普天間飛行場の辺野古移設問題で全国的にも大きな関心を集めたが、結果は3458票差。これほどの大差は誰も予想していなかったのではないか。
この結果について、すでに多くの分析記事が出ている。自民党の総力戦ぶりや公明党・創価学会による支援を渡具知氏の勝因と挙げたものが目立つ。その通りだと思うが、一方で今回の選挙で気になったことがある。
それはマスコミ各社による電話調査や出口調査が全く実態を反映していなかったことだ。調査では、どの社が実施したものも投票日当日まで一貫して稲嶺氏のリードを示していた。
コンピューターで無作為に選挙区内の世帯を選んで電話をかけ、どの候補者に投票するか問うのが電話調査。出口調査は、期日前投票や投票日当日に投票所から出てきた有権者に、誰に投票したか質問するもの。実際に投票を済ませたばかりの人に聞くため、出口調査は電話調査よりも確度が高いとされる。どちらも記事のトーンを決めたり当確の一報を流したりするために欠かせない調査である。
県内大手2紙は、告示日にあたる先月28日とその翌日の29日に共同通信を含めた3社合同で電話調査を行い、30日にその結果をもとにした記事を一面に掲載した。その見出しは、一方が「稲嶺氏やや先行 渡具知氏猛追」。もう一紙は「稲嶺、渡具知氏接戦」。同じ調査をもとにしながら見出しのトーンはかなり違う。
実際の調査結果の数字を耳にしたが、確かに「稲嶺氏先行」との見出しをつけるのも理解できる。それでも、もう一紙が「接戦」としたのは、4年前の市長選で同様の調査をしたところ、2人の候補者の差が大きく開いていたにも関わらず、投票結果はさほど差がなかったことを考慮したからだそうだ。
実態とかけ離れた調査結果が出るのは、電話調査だけではない。出口調査でもマスコミ各社軒並み大差で稲嶺氏優勢という結果だった。その原因として考えられるのは、回答拒否率の高さ。先の3社合同の電話調査でも回答拒否は3割超もあるが、出口調査では4割、5割に上ったそうだ。拒否者の多くは渡具知氏に投票したと見られ、それが調査結果の歪みになって表れたのだろう。
渡具知氏は今回の選挙で辺野古移設の是非について明言を避けていたが、市議会では辺野古移設を容認する会派のリーダーだったことは地元ではよく知られている。渡具知氏に投票したことで、辺野古移設に容認とマスコミに思われたくないという心理が働いたと解説する関係者が多い。
辺野古が普天間飛行場の移設先とされて以来、20年以上。名護では市長選のたびにこの問題が争点とされ、市民は旗幟を鮮明にすることを求められ続けてきた。マスコミもここにばかり焦点を当てるが、「もうこの問題に振り回されるのに疲れた」。市内を取材して回ると、こうした声をよく聞く。市民は辺野古移設問題に倦んでいるというのが実感だ。そうした市民感情がマスコミ各社の調査に応じないという形で出たのではないか。
基地問題よりも市民の暮らしや生活の向上を、との渡具知陣営の主張に支持が広がったのも、この文脈で説明ができるように思う。
ともあれ、今回の名護市長選の結果が翁長雄志知事にとって大きなダメージとなったことは、何よりも投票日晩の大勢判明後に知事が見せた固い表情が物語る。翌日に「県民の民意は生きている」と述べてみせたが、その求心力に陰りが出ることは避けられない。次は3月11日投票の石垣市長選である。