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社会・全般
寒露の節気(行雲流水)
寒露の節気。今年もサシバがやってくる。サシバは秋の風物詩として、年ごとに私たちの目を楽しませてくれる。彼らは日本列島の各地で繁殖、第一の集結地である愛知県渥美半島の伊良湖岬で集結、次いで伊勢湾、紀伊半島を経て第二の集結地鹿児島の佐多岬に集結、北よりの風が吹く気象条件のよい日に南下、宮古諸島に飛来する。宮古で羽を休めると、早朝南へ飛び立ち、フィリピンやインドネシアの島々に渡って、そこで越冬する
▼その魅力は飛翔する姿が美しいだけでなく、困難や危険を乗り越えてひたすら旅を続ける、そのけなげさが感情移入を誘う
▼渡りの謎はクラマーたちの実験(位置認識と太陽コンパス)や人工衛星による追跡調査等によって解明が進んでいるが、謎は残る。渡りを発現させる仕組みは遺伝子の中に組み込まれているのだろうが、例えば「渡りの衝動」一つとっても驚きである
▼渡りは旅であり、旅には漂泊が伴う。芭蕉のように、心をそぞろに「片雲の風に誘われて漂泊の思いやまず、海浜にさすらって」いることもあるのだろうか
▼1898年、民俗学者の柳田國男はサシバの第一集結地伊良湖岬に漂着した椰子の実をみて「日本民族の故郷は南の島々だ」と確信する。その話を聞いて感激、島崎藤村は詩「椰子の実」を書き、それに大中寅二が曲をつけて広く歌われてきた
▼生きられるように遺伝子を変化させることも、住みよい地を求めて民族が移動することも、そこには漂泊(変化、試行錯誤)があった。