被災乗り越え、新たな一歩/福島県の笠原さん
宮古島で葉タバコ収穫作業
東日本大震災で住居が半壊し、宮古島に避難している福島県の笠原勝さん(38)が、上野で葉タバコ収穫の手伝いを始めた。畑主の宮國朝親さん(73)の誘いを受けて何の迷いもなく働くことを希望した。被災地の復興まで先が見えない不安定な状態は続く。それでも「働かないとね。家族が食べていけませんから」とにこやかに話す。笠原さんが働く姿に目を細める宮國さんは「大変だと思う。だけどしっかり頑張ってほしい」と被災地の復興を願いながらエールを送り続けている。
笠原さんが住み慣れた福島県双葉町。人口約6900人の小さな町は地震で大きな被害を受けた。住む家を失うなど、どん底からはい上がれないままの住民に原発問題が追い打ちをかけた。双葉郡には東京電力福島第1原発がある。双葉町全体が避難対象地域に指定され、住民らは着の身着のままで避難。多くが埼玉スーパーアリーナに駆け込んだ。
笠原さんは親類と宮古島に飛んだ。元々宮古島に住んでいた親類を頼って来島し、今は親類3家族計7人で上野大嶺にある市営住宅で暮らしている。
そんな笠原さんを支援するのが宮國さんをはじめとする地域住民の皆さん。収穫したばかりの野菜や生活必需品を提供し、震災で疲れ果てた笠原さん一家を癒やしている。宮國さんの長男は「移動に困るだろう」と車まで無償で貸与した。
笠原さんは「本当にありがたいこと」と地域住民の温かさに感謝する。そんな周囲の励ましに応えながら生活の糧を得ようと農作業の依頼も二つ返事で引き受けた。「働かないと家族が食べていけないし、できることであれば何でもしたい」と笠原さん。初体験の葉タバコ収穫だが、宮國さんから指導を受けながら懸命な表情で作業に精を出している。
今後を思えば「先が見えない。転勤をするのか、会社を辞めることになるのか」と精神的にまいる。ただ、周囲の励ましと就労活動は笠原さん自身を奮い立たせている。
宮國さんは「小さな団地で7人が暮らしている。狭いだろうし大変だ。だからできることは何でもしたい」と話す。就労場所の提供に関しては「何てことはない。うちとしても葉タバコ収穫では人手不足。力もあるし本当に助かってる。彼には頑張ってもらうよ」と笑顔で話し、今後も笠原さん一家と付き合い続けるつもりだ。
未曾有の震災から逃れ、避難場所として駆け込んだ宮古島での生活。「こんな形で宮古島に来ることになるなんて…」と話す笠原さんだが、周囲の余りある励ましに驚く毎日だという。「本当にありがたいことです。心から感謝しています」と繰り返した。