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社会・全般
奇跡の人(行雲流水)
光と音の世界から完全に閉ざされていたヘレン・ケラーは、すべてのものに名前があると分かったとき、「手に触るものすべてがいのちを持って震えているように思えた」と語っている
▼彼女は、世界中の人々に感動と勇気を与え、「世紀の奇跡」と言われたが、そのヘレンを限りない慈愛と忍耐を持って育てたサリバンもまた「奇跡の人」といえる
▼大江光は脳に障害を持つ知的障害者として生まれたが、適切な指導で音楽家に成長、最初にリリースしたCD「大江光の音楽」が日本ゴールドディスク大賞を受賞、伯父の伊丹十三監督の「静かな生活」の音楽で、日本アカデミー賞・優秀音楽賞を受賞するほどになった
▼父親の大江健三郎は、光が障害者で生まれたときの苦悩や、光と寄り添い、音楽的素質を見抜き開花させた体験を『個人的な体験』として作品にした。その内容の人道性や、小説『万延元年のフットボール』等の評価で彼はノーベル賞(文学)に輝いた
▼その大江健三郎は「私の一生を決めたのは歳のときに読んだ渡辺一夫著『フランスルネサンス断章』であった」と語る。平和について、「人間は、思い込みと自分らの作りだしたものの機械となって突進する─。渡辺さんはいつの世にもある不寛容に嘆息しながら、歴史を見れば寛容こそ有効だと、言い続けた」と書いている(『伝える言葉』より)
▼ヘレン・ケラーも光も大江健三郎も、ジャンルは違うが「人」の影響で開眼、自らを深化させて、社会によきものを放ち続けている。