行雲流水
2018年8月21日(火)8:54
【行雲流水】(『椎の川』)
大城貞俊の小説『椎の川』がコールサック社から復刻再刊された。物語は、ヤンバルの小さな山村で暮らす松堂家の人々を中心に展開される。松堂家の人々は幸せに暮らしていた。しかし太一少年の母親静江は当時不治の病とおそれられていたハンセン病にかかる。村人がパニックに陥る中、父親源太は沖縄戦へ招集される。源太は妻静江のために人里離れた場所に小屋をつくる。静江は、3人の子どもの寝顔に無言で別れを告げて松堂家を去る
▼病とイクサに翻弄(ほんろう)されながらも、松堂家の人々は家族愛を失わず懸命に生きていく
▼ところで、『椎の川』を再刊した鈴木比佐雄発行人が先日、南静園のハンセン病歴史資料館を訪れた。資料館には、ハンセン病に関する歴史や証言等が展示されている。膨大な証言を収録した「沖縄県ハンセン病証言集」の編集委員長は『椎の川』の著者大城である
▼入所者は、職員に逆らったとか規則違反したとかで監禁室に入れられた。その監禁室が復元されているが、暗くて小さく、臭い所である。戦争で園舎が灰燼(かいじん)と化した時、南静園の入所者たちは放置され、ガマで暮らし、110人が死亡した
▼ハンセン病はもともと感染力が弱く、隔離は必要ないというのがヨーロッパ等の先進国の認識である。特に、1943年にプロミンが開発されて、完全に治る病気になった。しかし、日本で隔離政策が否定されたのは、1996年である。一連の隔離政策の違憲性は最高裁で確定した
▼再び、偏見と差別による、あらゆる人権侵害を許してはならない。(空)