行雲流水
2011年7月20日(水)23:03
狼と少年(行雲流水)
イソップ物語に「狼と少年」の寓話がある。ご存じのとおり少年は「狼が出たぞ!」と騒ぎたてる。村人は一大事と武器を持って駆けつける。その様子が面白くて少年はその後も狼が出たと繰り返す
▼やがて少年のうそに気づいた村人は誰もその言葉を信じなくなった。少年の言葉は狼が出なかった現実によって否定され住民にとって「狼が出た」は「狼は出ない」と同義語の言葉となっていたのである
▼本当に狼が現れたときも村人は少年の言葉を信じず村の羊は狼に食われてしまう。物語は少年のうその情報によって結果として村の羊は全滅してしまうという結末で終わっている
▼逆の現象すなわち当初は信じなかった情報でも執拗に繰り返されると正当化してしまうという人心のもろさは世間には多々ある。情報をそしゃくし十分に納得するゆとりがない情報氾濫社会の今日にあっては特にである
▼コマーシャルの誇大情報に踊らされ製品の良しあしを吟味することなく即決買い求めてしまう消費者心理。飽くなき利益に執心する企業体が仕掛ける情報操作はこの心理を巧みについた真綿の罠であると識者は指摘する
▼原発再稼働をもくろんで仕掛けた九州電力幹部らの「やらせメール」事件はその最たる悪例か。東電原発事故によって故里放棄まで強いられている福島住民の苦渋の胸の内などみじんも思いやっていない。無神経である。