玉寄 英美さん(62歳)/琉球古武道哲心館協会会長
沖縄県古武道連盟理事長 範士9段
生きている毎日が修行
「段位を重ねれば重ねるほど、対外的な強さより内面に向かっていく」。11人兄弟の3番目。幼いころは水くみに明け暮れた。中学を卒業して島を出る。ただ強くなりたい一心で武道に入ったのが18歳のころだった。今では、南城市に「哲心館」を主宰し、海外に21の支部をもつまでになった。貧しい中にも豊かな島の自然に育まれた幼いころの体験が今の自分を支えていると、島の祭り「ミャークヅツ」には毎年帰って旧交を温める。
古武道は空手との両輪といわれるが、違いは素手の空手に対し古武道は釵(さい)・六尺棒・ヌンチャク・ティンベー・鎌・櫂・鉄甲・トゥンファーなどの道具がある。歴史は中国・アジアに股がり口承であるため、はっきりしない点も多いが形の制定は沖縄だという。玉寄さんも最初は空手から入った。7年後に入った道場で初めて琉球古武道に出合い、道具を操る演武に魅了されていく。
兄を頼って沖縄本島に出た少年は、自立が目標だった。そのためには身も心も強くなければならなかった。溶接の技術を身に付けながら大学は夜学に通った。こうした精神力は、カツオの一本釣りを生業とする父親の手伝いや、一日ドラム缶1本を満たす水くみで培われたものだった。強さへの憧れが厳しい武道を四十数年継続させた源となっている。「作業着と道着は自分で洗う」というこだわりは、仕事と武道を神聖なものと捉えているからだ。
琉球古武道は海外での人気が高い。93年、カナダ人との出会いが海外で支部を広げることになった。今では年に数回セミナーという形でヨーロッパやアメリカ、カナダに渡り、3~7週間の出張指導で門弟との交流を図っている。「言葉も英語が片言しかしゃべれないが何とかなる。道着さえ着ればぼくの世界だから」と笑う。
「ミャークヅツ」は、55歳が入学となる。玉寄さんは、毎年この日の帰省を楽しみにしている。所属する前里ムトゥでは、恒例となった古武道の演武を行い長老たちに喜ばれた。「帰れる故郷があるって幸せです」
玉寄 英美(たまよせ・ひでみ) 1949(昭和24)年7月日生まれ。平良字池間前里出身。真和志高校卒。67年空手道(小林流)に入門、75年、沖縄大学卒業後、美里工業設備工業科の実習助手に。82年、古武道の本部道場へ。99年「哲心館協会」開設。2005年範士9段取得。妻・正子さんとの間に1男3女。孫7人。
(池間島出身・南城市大里在住)