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私見公論
2011年11月11日(金)23:04

ヒューマン・リソース(人的資源)に夢を託す/岡村 一男

私見公論⑥ 


 朝、親が子どもを学校に送り出す風景には何となくほのぼのとした心温まるものを感ずる。そのささやかな行為がよりよい明日を築くと思うからである。


 人はだれでもその成長の過程で教育という営みの恩恵を受ける。それがどんな形であれ、人は教育によってのみ人となり得る。よりよい教育を受ける機会に恵まれた人は、それだけで人生の大きな宝を得ることになる。教育の成果は、個々人のしあわせに留まらず、国や民族や地域の将来と深く関わるものである。

 人的資源こそあらゆる発展への最も強力な武器であり、力の源泉である。それは向上を目ざす地域の協同の意識と行動の中で育つことを心したい。明日の豊かな社会を目ざすなら、私たちは何はさておいても、次世代のためによい教育環境を整えるためにあらゆる努力を惜しんではならない。

 望ましい教育環境とは何か、の問いは地域が論を尽くすべき主要なテーマである。いま論議が進められている学校統廃合の問題もその延長線上にある。こと教育に関しては百年の大計。地域発展と子どもたちの望ましい教育環境を整えるという両者の接点を求めて、拙速に走ることなく、大所高所からの大人の英知と慎重さが求められる。大切なことは、学校は地域発展の一翼を担いつつも、そこに学ぶ子どもたちの望ましい人間形成こそ第一義であるとの認識である。

 さて、第5回世界のウチナーンチュ大会のシンポジウムで参加者が異口同音に訴えたのは「人材育成への切なる思い」と「人こそ資源」というフレーズ(句)であった。これまでの私的な体験を通して感じることは、海外に雄飛する宮古の若者の少ないことである。いくつかの国の県人会に参加した折に、宮古出身を名乗る若者に出会うのは稀であった。広く世界に人的ネットワークを築くことは島の将来にとって貴重な財産となる。

 島の閉鎖性とは思いたくないが、若い世代には活躍の舞台を広く世界に求め、あらゆる分野にチャレンジしてほしいものである。今大会では次世代のために「万国津梁基金」の創設も提言され、県を挙げて取り組むことが明らかになった。学問の分野では沖縄科学技術大学院大学もいよいよ開学の運びとなり、若者たちには自らを試すチャンスが限りなく広がっている。

 島独自のプログラムも実績を積みつつある。中高校生の海外ホームステイ事業や短期留学制度等は回を重ね、若い芽を育てている。WUB(世界ウチナーンチュ・ビジネスマンの組織)宮古支部も結成され、ハワイとの交流も新しいメニューとして始動した。一連の交流事業に関し、気になることが一つ。派遣される若者たちがほとんど女性で占められていることへの懸念である。社会は男女のバランスが保たれて発展していくもの、派遣の方法にも一考を要するし、男性の諸君には奮起を促したい。

 いつの時代にも、どこの社会にも不足しているのは人材だとよく言われる。郷土史研究家の仲宗根將二氏は、その著、「近代宮古の人と石碑」の中で、「いかなる人物といえども、互いに励まし合い、共に行動する群像の中から生まれる。民衆の中からこそ人物は育っていく」と人物は共に行動せずして育つものではなく、行動する民衆の力で押し上げて育てていくものとする氏の指摘は至言であろう。

 さらに同書の中で氏は「島の多くの先人たちは、すぐれた資質と意欲をもちながら、厳しい学閥、門閥、人脈に阻まれて、あたら才能を開花させることなく失意の中に世を去り、あるいは帰郷せざるを得なかった」と先人たちの無念さを滲ませている。宮古人気質と併せて多くの課題を提起しているように思う。県内をはじめ日本社会における多くの「閥」の存在を私は否定しない。そして今もなお、綿々と続いているようにさえ感じられる。

 人こそ資源というなら島を挙げてそのための行動を展開する必要に迫られている。島の若い世代はあらゆる分野において才能豊かであり、気迫に満ちている。島で育った子が自力でしかも現役で東大の門を堂々とくぐる時を迎えた。島のもつ底力をすべての自信につなげたい。

 ところで学力の国際比較が話題になると、北欧の国、フィンランドの教育が取り上げられる。数年前、その首都、ヘルシンキを訪ねた折、関心をもって訊ねてみた。教師の質が高いこと(ほとんどの教師が修士号をもっている)、教師の職業としての社会的地位が高い。少人数のクラス(1学級は人程度)、そして市民の経済格差が少なく、教育への関心度が高い等々を教えてくれた。国情や市民生活も異なるが、そのいずれも島の教育を考える上で参考になる。

 さて、足元を見つめよう。豊かな人的資源は島の至るところにある。問題ありとすれば、その責めは親、大人、地域、行政にある。労を厭い、要領よく生きようとする若者や地域を育てたら人的資源は枯渇する。

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