日本は世界的な食糧危機に対応できるか(その1)/砂川 光弘
私見公論18
スーパーや百貨店の食料品売り場を覗くと野菜、果物、肉類、魚類等、豊富な品物が所狭しと陳列され販売されている。その豊富な食品を見ていると「食糧危機」は考えられずまさに日本は飽食の時代である。
江戸時代の四大飢饉、近年で言えば大正時代の米騒動等を経て、政府は国民への食料の安定的な供給を図るため莫大な資金を投じて土地基盤の整備や品種改良、栽培技術の改善等により農業生産力を飛躍的に発展させてきた。その結果、GDPに占める農業産出額の割合は10・8%、農業就業者は全就業者の30%を占め、食糧自給率も79%を確保した。(昭和37年度農業の動向に関する年次報告より)
しかし、現在の日本農業は、GDPに占める農業の割合1%、農家戸数は600万戸から283万戸、全就業者に占める農業就業者の割合は5%、食糧自給率は39%へと減少した。つまり日本の人口の3%に満たない約283万戸の農家が日本の食料の大半を担っており、農業従事者の平均年齢は歳を超えているのである。
一方、国連による世界人口の改訂が2011年に行われ、2100年までの将来予測がなされた。それによると世界の人口はほぼ100億人に収まる予測である。
そのように世界の人口が増加する中で日本だけが将来的に渡って安定的に食糧を確保できるか、疑問である。世界的な規模で地球環境が問題化する中で食料は単に人間の食べ物でなく、地球環境との関わりで燃料としての需要が増加している。
経済産業研究所の山下一仁氏によると、「世界のエタノール生産は2002年の3407㌔㍑から2007年には6256㌔㍑に倍増し、このうち41・7%のシェアを持つアメリカは国内トウモロコシ生産の3割を使用し、32・3%のシェアをもつブラジルは国内サトウキビ生産の5割をエタノール生産に使用している」とのことである。
エタノールの生産がどこまで伸びるかは予測できないが、穀物類の新たな需要が出てきており、近年の国際食糧価格高騰の一因となっているのではないだろうか。そのことにより世界では4400万人が新たに貧困に陥っているとのことである。そのような状況下で日本だけが農産物・水産物の輸入大国として豊かでかつ贅沢な食生活を実現し、現在でも起こっている世界的な食糧危機を発展途上国の問題として一蹴できるのであろうか。
世界の人口に占める日本の人口割合は2%であるのに対し、世界農産物輸入額に占める割合は約5倍を占め、EU15、米国に次ぐ輸入額となっている。(農水省「海外食糧需給レポート2004」)
日本の品目別食糧自給率は、米95%、卵96%であり、輸入農産物の大半は家畜の飼料である。発展途上国では日本の飼料代で食料を買うだけの経済力がないため食糧危機に陥っているのである。
かのブータン国王が絶賛した素晴らしい日本の歴史と文化、国民性を有した優秀な日本人が自国で農産物を自給できれば、世界の食糧危機の一助となることであろう。もう一歩踏み込んで米の減反政策でなく、国内需要を上回った米を食糧危機の陥っている世界の子供たちへ支援することができれば日本に対する世界の評価も変わってくるのではないだろうか。今こそ党利党略の国会議論でなく世界的な視点から日本の果たすべき役割や将来ビジョンおよび深刻な食糧危機について議論が必要である。