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私見公論
2012年9月14日(金)23:30

大きな呼吸を/伊志嶺 敏子

私見公論47

 9月になると、かすかに空気が澄み、猛暑の夏も終わりに近づいたことを感じる。わけても、台風が北上して乾いた北風が吹き、一層爽やかさを感じる日「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる」と、母は、そらんじながら、「名歌だねえ」と、毎年きまったように言う。季節の変わり目、詩心が刺激されているようだ。


 ところで、読者の皆さま、宮古島に吹く、月ごとの風向、あるいは温度、湿度を意識したことはありますか。下記の図表は、以前、団地の建替え設計を手掛けた折、まとめてみたものです。

 まず、風向きを示す図を見ると、4月から8月までの5カ月間は南よりの風向に対して、11月から3月までの5カ月間は北よりの風向となっている。そしてその間の9月、10月は東から徐々に北よりの風へと変わり、夏から冬へとつなげている。この季節から湿度も下がってくるので、爽やかさを風に感じるようになる。その一方で、3月から4月には、一気に北よりの風から南風に変わるので、湿気を感じ、結露に悩まされることになる。

 この様に、私達の住んでいる土地の気象データを図表化してみると、無意識の中にあった物が、意識化へと変化して行く。もっとも、設計という作業は、無意識の中にある事を、意識化する、という事でもあるのだが。

 さらに、他所との気象データを比較する事で、宮古島の気象の特性がより明確になって行く。試しに福岡、東京との温度、湿度、風速の比較も表にまとめてみると、真夏の最高気温は、宮古の方が以外にも低く、湿度の方は非常に高い。そして風速はどの地域よりも速い。という事は、風には恵まれているという事だ。夏場の不快指数を上げている高湿度には通風をよく考慮すれば、自然の風で涼しく快適な住まい造りは可能だという事になる。

 では通風を効率よくするにはどのような方法があるのだろうか。常識的には風上と風下に、開口部を設けるという事だ。が、その開け方に知恵がいる。

 人の体は一番どの部分で心地よさを感じているのだろうか。それは住まいにじかに接している足裏だと思う。そこで床面を風がなでる開口部の設け方を、大切にしたい。そのためには、床面にある地窓、壁の隅に床面から立ち上がる縦長の細い窓を設けて、床面から風を通すようにする事で、夏場の湿気は和らぎ、快適さを増す。腰壁のある高窓では、風は床面をなでる事はできず、湿気だまりをつくってしまい、通風の効率を悪くしてしまう。

 宮古島はまるで洋上に浮かぶ船のように、常に海風を受けているので、湿度の高い所である。夏場の湿気をたっぷりと吸った屋内の床・壁・天井をこの9月から吹き始める乾いた風を通し、住まいに大きな呼吸をさせてほしい。そうすれば、住まいは健康環境となって、そこに住む人を健やかにしてくれるでしょう。

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