社会規範としての仁義と礼をもって国を治めるとした孔子に始まる儒家思想を葬り、今の中国指導部に残るのは韓非子の利益追求の冷徹な思想であると思える。韓非子は、国家統治の原理は指導者の権勢にあると説き、利害に走る国民を治めるには賞罰を厳格にすることによってその権勢を示すことであると強調する

▼韓非子の思想は自国の統治のみならず国際社会にも持ち込まれた。全国人民大会の前日３月４日の記者会見で中国の外交姿勢について共同通信社の記者の質問を嘲笑する自国の記者たちを前に中国外交部副部長である傳報道官は、これまでの主張を正当化する

▼傳報道官の発言内容は、６日の中国共産党中央委員会機関紙『人民日報』のニュースサイト「人民網日本語版」に『「中国人の声に耳を」全人代報道官が日本各界に呼びかけ』の表題で掲載された

▼その中で「日本は、当時清朝だった中国から釣魚島を盗み取った」それは「歴史的事実」であるとし、「中国の海洋監視船による釣魚島海域の巡航は必然的なものだ」としたうえで、日本のメディアはこのことを日本に伝え「日本の社会各界が中国国民の声に耳を傾け」ることを望むと強要する

▼日本は魚釣島を盗んだのだから中国政府のいうことを聞かなければ尖閣海域に入ると拿捕しますよ、彼女はそう言っているのである。魚釣島を含む尖閣諸島は日本領土であることを思えば中国政府の言っていることは理不尽といわざるを得ない

▼自国民には政府の権勢を誇示し他国に隷属をもくろむ。そういった統治姿勢を持つ共産党一党支配の国ゆえの論旨なのかと思わずにいられない。