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行雲流水
2013年4月8日(月)23:20

「マツガニ川柳」(行雲流水)

 上地慶彦著『マツガニ川柳』が面白い。本書は、人情や風俗、世相などを、ウイットとユーモアを交えて風刺した川柳と、身近に触れる森羅万象を感性豊かにとらえた随想からなる。いずれの作品も、本人の日常会話の中にポンポンと出てくるようなユガイナ(軽妙なおかしみ)を感じさせる


▼「手を挙げて瞬時に気付く人違い」。「リハビリの友へ気遣う回り道」。「訳あって一夜を寝かす回覧板」。「約束の時を違えた古時計」。作者の心の機微が、古時計仲間にはよく分かる

▼月では、ウサギが餅つきをしているぐらいに思っていたら、あっと驚く為五郎、彼は詠む「雄二羽か月にうさぎの増えぬ由」。「頂上へ来てしまったかカタツムリ」。たぶん、頂上は露の玉でぬれている

▼江戸時代の川柳に「役人の子はにぎにぎをよく覚え」というのがあるが、川柳の総合月刊誌『川柳マガジン』の特選を受賞したマツガニ氏の「裏金も野菜も運ぶダンボール」は現代の名句である。隠蔽も運搬も昔とは桁が違う

▼「米軍の綱紀粛正花一匁」。軽いことば「花一匁」が重い虚偽の本質を突く。「改革へやらせ始めるミーティング」。庶民はその虚構を見抜き、笑っている

▼随想で、地域の民俗行事や方言のこと等をエピソードを交えて味わい深く書いているが、何よりもにじみ出る郷土愛が共感を呼ぶ。動植物との触れ合いはあくまでも自然体である。「おごえ」と驚く発見の喜びが伝わってくる。周辺に飛来するハトもサシバもチンチンも、みんな彼が放し飼いしているものだ、そうだ。

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