「人は、自分の弱さを悟るときに、大きな力を発揮することができます」
日本親業協会親業インストラクター 福里盛雄
1 世間においては、弱さより強さが賞賛されます
現代は無縁社会だと言われています。それは、人間が自分たちの強さの誤解に基づく高慢が要因ではないでしょうか。人は自分一人だけでも生きていくことができるし、他人の助けは必要でない。他人との関わりは、かえってわずらわしいと考えています。誰とも関わりを持たずに生活をした方が気が楽だという人生観が、他人と何らの関係をもたない無縁社会をつくり出しているのです。
人は、誰とも関わりを必要としないで生きていけるほど強い存在だろうか。本来、人間は、他の動物と比較しても肉体的力においては弱い存在にすぎません。他の動物を管理し支配する権威を有するものとして、人間の創造主は、人を創造したのである。私たちの創造主は、肉体的力に限界を与え、精神的力に重きをおいて創造しました。人に無限の肉体的力を与えると、人間は傲慢になり、他人との連帯性・協調性を失い、どんなときにも創造者の助けを必要としない創造者の否定につながり、ついには他人との関係も崩れ、止まり木のない夕暮れのすずめのように、孤独な存在となる。
私たちは、自分の弱さを、いつも認識し、その弱さの中でどう生きていくべきかの知恵を身につけなくてはならないのです。その弱さの中での知恵が働くとき、その弱さが強さに変化する。そのとき、「人は、自分の弱さを悟るときに、大きな力を発揮する」という言葉の本当の意味を体験するのです。
2 自分の弱さを強さに転換する方法
最も適切な童話の中の「うさぎとかめ」のかけっこのお話を紹介しよう。兎さんが、亀さんに対して、どうしてそんなにのろいのか、とばかにした話をします。それに対して、亀さんは、そんなら、向こうの小山までどちらが先に着くか、走り競争をしよう、と言います。兎は勢いよく走り出し、亀さんを遠く引き離し、勝利した自信を持って、ひと休みします。そのうちに、グウグウと寝てしまいます。亀さんは自分ののろさを知っているので一生懸命に走り続ける。とうとう、走り競争は亀さんの勝利となります。この兎と亀のかけっこの物語から、私たちは何を学ぶことができるでしょうか。
走る強さは、亀さんより、兎さんが何百倍、何千倍も強いのは明確です。しかし、実際の走り競争では、のろい、走る力の弱い、亀さんが勝ちました。亀の勝利の原因は何か、走る力の強い兎さんが負けた原因は。私たちは、この物語から、人生を幸せに生きる知恵を修得し、自分の生きるための力としたい。
私たちは、世の強者が、滅び失せた多くの例に接してきた経験を持っています。また、見込みがないとすべての人から、見捨てられていた人が、世間を驚かすような大きな立派な仕事を成し遂げるのを見てきました。自分ではどうすることもできないまま、自分の力の足りなさに、自分の生まれてきたさだめをのろい、嘆き悲しみ、すべての希望を捨てて、暗い穴底で生きていくか、それとも自分に負わされた状況を感謝して受け入れて、その中で生きる知恵を探す努力を、あらゆる方策を用いることが大切です。そうすれば自分の創造以上の力が沸いてくるものと確信します。
世界の成功者は、幾たびとなく自分の力の弱さに嘆き悲しみ失望した集団です。彼らを成功に導いた力は、彼らは自分の弱さを悟りながらも、どうしても、このことを成し遂げたいという強い信念と、何とか自分にできる方法を探し、その考え出した方法を用いて、達成すべき目的に心一筋につき進み続けた謙遜な考えにあると考えます。