行雲流水
2014年3月8日(土)8:55
「桃始笑」(行雲流水)
桃始めて咲く。二十四節気の啓蟄から春分までの期間を5日間ずつ三つに分けてその中間を「桃始笑(ももはじめてさく)」の時期とし啓蟄次候とする。中国由来の季節を表す短い言葉を日本の風土に合わせて表現した七十二候のうちのひとつである。冬籠りの虫が出てくる「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」が啓蟄の初候となる。今年の暦では3月6日が啓蟄入りだ
▼桃の花が咲き始めるのは週明けの火曜日あたりということになるが、宮古島の桃は花の時期を終えていることだろう。平良の方言でモモのことをムンという。桃の木はムンギーだ。そのムンギーが元の住まいの裏に辛うじて残っている
▼辛うじて、というのは幹が朽ちてしまった根元から細い枝がまっすぐ伸びているが、その枝がいかにも頼りない。もともと人の手で植えたものではなかったといえ幹が朽ちたのは惜しまれる
▼宮古島の桃は、夏に出る大きくて丸くたっぷりと水分を含んだ柔らかい水蜜種とは異なる。果実の表面が薄い毛で覆われているのは同じだが、その形は手のひらで握りつぶしたような歪なもので果肉は硬い。種子には唐草文様が刻まれる。葉は2㌢ほどの幅で細長くいい香りで、あせもの薬用となる
▼花は、薄紅色の五弁の花びらでおしべの付け根が濃い紅色。花柄は目立たず枝から直接花が咲いているようにみえる可憐な姿だ。総じて、栽培種のような派手さはなくひっそりとしたものだ
▼桃は邪気を払い不老長寿をもたらすと大和や中国では古くから親しまれてきた。宮古島の桃が、いつの時代に渡ってきて人びとにどのように親しまれてきたか知る由もないが、細枝に咲くたった一輪の桃の花に生命の気品が漂う。