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私見公論
2014年5月2日(金)8:55

「畜産農家の現状」/砂川辰夫

宮古の肉用牛振興について考える③
私見公論92

 毎月、セリ市場をのぞくと愕然とするやりきれない光景に出くわす。せっかく、立派に育て出荷したにもかかわらず、汚れたままや、削蹄されず糞がついたままの状態で、素知らぬ顔で出荷する畜主の心情が理解しがたい。

 自分の牛の評価をしていただくセリ市場であり、なおかつ、セリ出荷日は生産農家の腕の見せ所で評価を頂くチャンスである。一円でも高い評価を得るべく、牛の持つ能力を存分に生かし、誰が見ても手入れの行き届いた牛として、毎月のセリ市場は、畜主および子牛の晴れ舞台として臨む場所として考える。

 しかし、現実はその光景を見るたびに畜産農家のセリ市場での姿勢を嘆きたくなる。

 新年明けの本紙面での購買者誘致活動報告の中にもあったように、「宮古牛の評価は高い」という見出しで好評価を受けたにもかかわらず、その中で、生産農家のセリ市場でのモラルを厳しく指摘されたとあり、「売る側のモラルの欠如」を嘆いていた記事が掲載されていた。このことは、以前から指摘されており、最近は以前にも増して目立つような気がする。

 JAでは、ハガキで毎月丁寧に畜主の皆さんへ、セリ市場での子牛出荷に際しての注意や、マナー等をしっかり明記し郵送に努めている。「①入場番号を装着し、出荷牛の前で手入れはする。②繋留時は、購買者に十分下見ができるよう綱を短くつなぎ、牛を姿勢よく立たせる。③ハガキの耳標番号と出荷牛の耳標番号の確認をする。④牛のキズ・足の腫れ等、待機している獣医師への報告。⑤去勢牛は去勢の有無を十分確認する。以上は自己責任で、申告漏れは解約やもめごとの原因となる。当たり前にすべきことが、当たり前にできていない。

 特に、必要以上に繋留所の徘徊が目立って多く、下見の邪魔となる。購買者は、早く市場へ来て牛の下見をしたいのだが、肝心の牛が来ていない。「売りに来たわけだから、購買者に対し、少しでも見やすいように、綱を短くつなぎ、姿勢よく立たせてきれいに見せようとする認識に欠ける」と首を傾げ、異口同音に口にする。

 宮古の和牛畜産環境は、まだまだ伸び代は多く、生産農家が牛と真剣に向き合い、取り組む姿勢を変えるだけで、さらに高い評価を受けるものと私は思っている。自分の牛・自分の商品としての付加価値をいかにすれば高い評価を頂けるのか、なぜあの人の牛は高値で売れるのか、すぐに誰にでも分かることである。

 セリでは誰もが思うように高く売りたいのが心情である。しかし、それ以前になすべきことは牛を生業とするならば、真剣に取り組む姿勢・意欲・気概がなければならないと思う。畜産農家がもっと牛と向き合い、意欲、意識を変えるだけで、明るい展望は開けるものと思えてならない。今や、宮古牛の血統・資質評価は全国レベルにまで達している。宮古島へ訪れた観光客も知人を介しどこそこの牛肉より「美味い」と評価は高く、誇れるまでになった。宮古のセリ市場を訪れる購買者の顔ぶれにしても、日本全国津々浦々「十指」に入る素晴らしい購買者もそろって、ご購買を頂いており、宮古のセリ市場は恵まれた環境にある。しかし、最近のセリ名簿を見ると削蹄された子牛の出荷頭数は、約30~50頭くらいしか上場されていないのが現状である。和牛の価格低迷が続いたこともあり、経費の削減で削蹄をしない農家が増えたとうかがい知ることはできる。

 思うに、低迷であればこそ磨き、この市場へ来て好い牛が買えたと購買者に言わしめるほどの農家の意識・認識が不足しているのではないだろうか。それよりも毎日給与する濃厚飼料を0・5㌔減らし、粗飼料を多めにすることの方が経費の削減、子牛の仕上がりにも良いのではないかと思う。各々、農家戸々の飼養管理は違っていていい、否定するつもりは毛頭ない。子牛の価格を少しでも高めるための意識、工夫で購買者が買いたくなる、つい手を出したくなる、手入れの行き届いた子牛の生産、努力が必要不可欠ではないか。「最近の○○さんの牛は良くなり、中々手が出にくくなったね」と購買者に言わしめる子牛の生産に、自信と誇りと、そして何より、気概を持って取り組むことを願ってやまない。
(すなかわ たつお・JA下地支店長)

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