行雲流水
2016年4月2日(土)9:01
「センダン」(行雲流水)
センダン、古くは楝(おうち)平良ではシンダンギィ。冬の冷たい北風が南からの温かい風に変わる頃、薄紫の小さな花が房のように咲く。これを古い言葉では「楝の花」という。合併前の平良市の花木でもあったと記憶しているがいつの間にかセンダンにまつわる話を聞くこともなくなった
▼旧宮古病院の庭にそれは見事ともいえるセンダンの木があって南風が吹くころになるとさわさわと風に揺れる葉音が花の美しさを引き立てた。そこはあらゆる邪気を寄せ付けない聖域とも思える空間を醸し出していた。幼少の頃のわが家の裏の畑のそばにも周囲のガジュマルやその他の木々を凌ぐセンダンがあってタカの渡りの季節になると羽を休める場になっていた
▼センダンはその花の美しさだけではない。昔は皮を煎じて回虫や蟯虫の駆除に薬用として重宝がられた。南方熊楠(みなかた・くまぐす)の一文に『紀州田辺湾の生物』というのがあってその中にセンダンについての記述がある。「西洋では霊木。印度の誇り、支那では楝の葉を佩(は)いて悪気を避ける」とセンダンの木についての洋の東西、古代の人々の思い入れを伝える
▼しかし、日本ではセンダンは平安時代から獄門台の材に使われていたということでこの木を忌み嫌って庭木にしないこともあるようだが、南方は刑死者の邪気を抑える意味で使われていた、のではないかと指摘する
▼今、宮古島ではセンダンの木が見当たらない。城辺の比嘉から福里に向かう直線道路の街路樹はセンダンであった筈だがその影さえない
▼宮古島に古くから自生する樹木、その中には老木・巨木のほかに後世に残しておきたいものがまだあるはずだ。