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行雲流水
2017年2月23日(木)9:01

【行雲流水】(接客ビジネス)

 過日、奈良を訪ねた。飛鳥寺など蘇我一族の足跡を訪ねる一人旅だった。橿原(かしはら)駅でタクシーを拾い、地図を片手に行き先を数カ所告げた。運転手は、初めての観光と知って親切に案内してくれた

▼客の質問には丁寧に答えるが、押し付けたり、勧誘したりの余計な口出しはしない。過不足のない応対振りに、「さすが、観光地」と感心した

▼東京や那覇のタクシーとは違う。東京は冷たく、那覇はおせっかい、奈良はさわやかとの印象が残った。東京、奈良、那覇でたまたま乗ったタクシーの比較だから、一般化はしにくい。が、印象としての残像は長いこと尾を引くからやっかいだ

▼そもそも、ビジネスとしてのタクシーは、客を安全に目的地まで送り届けるのが基本。東京のタクシーは基本どおりで極めて無口。よく言えば〝黒子〟の役に徹し、悪く言えば客を貨物扱いしているような印象だ

▼逆に那覇のタクシーは、車の中は自分の住家で、主人公は自分だと心得ているようだ。後部座席の二人の客の会話の内容にまでコミットしてくる。よく言えば家族同然の親しさ、悪く言えば立場をわきまえない余計なお世話

▼生活習慣と商売、言い換えれば地域文化とビジネスの関係を考えさせられた。奈良のタクシーは、スマートだった。観光地だからそんな知恵がうまれたのか、この知恵があったから観光地として栄えているのか、考え込んでしまった。観光地は、徳義の錬成道場なのかもしれない。接客ビジネスの奥義を伝授してもらったような奈良の旅だった。

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