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行雲流水
2017年9月2日(土)9:01

【行雲流水】(痛みそして介護)

 「予ハ元来健康ナ体質デアッタ」それが「七十七歳デ喜寿ヲ祝ッテカラ」体の痛みというものを知った。「最初ニ左ノ手カラ肘、次イデ肘カラ肩、次ニ足カラ脚、脚ノ方ハ左右両方デ日増シニ運動ノ自由ヲ欠クニ至ッタ」とボヤクのは卯木督助、谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』の主人公である

▼卯木(うつぎ)の歩行困難や痛みといった体の不調は一般的に高齢者が陥りやすい疾患と言えるのではないか。「頸椎ノ断層写真迄撮ラセタ」結果は「頸椎ノ六番目ト七番目ガ変形シテイル」と言われ「手ガ痛ンダリ麻痺シタリスルノハソノセイダ」といわれる

▼卯木の日常は痛みとの闘いだが生活そのものは庶民とはかけ離れている。健康管理と介護のために住み込みの看護婦を雇い、頸椎の治療器具を作らせたりと介護については雲の上の存在だ

▼卯木の家計は不動産所得と配当所得があって税金のことは計理士任せというからその所得は推して知るべしといったところだ。『瘋癲老人日記』が「中央公論」に連載され始めた昭和36年には今日の介護についての概念はなかった

▼平成12年4月に介護保険法が施行されるまで富めるものの老後は体が不自由になっても相応の介護を受けて豊かな生活を送ることができたことをこの作品は物語っている

▼いま、所得に応じて40歳から介護保険料を納めることが義務付けられ老後の体に支障が出ると誰でも同じような介護を受けられるようになった。介護保険制度は始まって17年余、制度として安定しているように見えるが、これから先高齢化する日本の福祉制度としてさまざまな課題を乗り越えなければならないのではないか。

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