行雲流水
2018年5月3日(木)8:54
【行雲流水】(外交交渉)
朝鮮半島に世界の耳目が集まっている。高まる南北融和ムードと不透明な非核化段取り。米朝首脳会談への期待が高まる一方、北朝鮮に対する疑心暗鬼もこれあり、朝鮮半島情勢は不透明だ
▼終戦直後の首相幣原喜重郎は、朝鮮半島を38度線で分割すれば「将来に禍根を残す」と批判した。幣原は朝鮮戦争前に亡くなったが、その洞察力はまだ息づいているようだ
▼明治期の外交官小村寿太郎は不平等条約改正で苦労した経験から、弱小国家日本の地位向上に腐心した。晩年の小村の交渉術は「非常の覚悟があるなら柔軟に」「どうしてもまとめたいなら強硬に」だったという
▼日ロ開戦前、小村外務大臣は栗野駐ロ公使に「満州からのロシア撤兵について交渉を開始するよう」訓令を発した。そのときの訓令電文は後に、イギリス外務省の新人教育用「文章軌範」になったという。平和を希求する日本の姿勢が伝わる内容だった。だがこのとき、小村はすでに開戦を決意していたという(幣原喜重郎「外交五十年」)
▼日ロ講和会議で日本全権代表を務めた小村は、今度は強硬姿勢を貫き、決裂前夜に急転直下妥結した。日本の戦争継続能力がすでに尽きていることを知っていたからである(吉村昭「ポーツマスの旗」)
▼今年は朝鮮戦争休戦65周年。世界は、「進歩と調和」を模索している。為政者の世界観も進化しているはずだが、金正恩はかつての小村寿太郎の心情に似た心境にあるのかもしれない。その真意をはかりかねて、世界中がふりまわされているように見える。(柳)