行雲流水
2018年5月22日(火)8:54
【行雲流水】(知と美の欲求)
「真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む」(岩波文庫発刊の辞)。本来、だれもが知識と美を欲求する。とはいえ、専門家でない場合、よき指揮者をもつことが大切である。また、専門家でも、他の専門分野から学ぶことを要する
▼宮古島出身の砂川恵光氏の作品が「第23回日本の美術全国選抜作家展」で大賞に選ばれた。受賞作のタイトルは「沖縄 海よ、空よ、島よ」である
▼氏は元宮古高校の美術の教師で、彼を中心に二十数名の職員が「青の会」(油絵同好会)を結成、盛んに活動、スケッチ会や合評会をもち、合同展示会を開催した。彼の指導があって、多くの職員が絵を描く喜びに目覚めた
▼また、俳人・野ざらし延男氏は1982年から3年間宮古高校で勤務、生徒の指導とともに、職員のための俳句入門講座を開設、その後、俳句同好会「耕の会」を結成、定例会で研さんした。生徒と教師の合同句集『脈』は、第一回日本詩歌文学館奨励賞を受賞した。作品の一つ、「葉桜に太陽の糸織り込まれ」(一美)
▼夏目漱石の『吾輩は猫である』に出てくる水島寒月は物理学者の寺田寅彦がモデルだと言われる。寅彦は夏目漱石の門下で、優れた随筆、俳句を書いている。一方で、漱石は、「偶然とは原因があまりに複雑すぎて、見当がつかないこと」と、寅彦から学んだ、天才数学者ポアンカレの説を、作中人物に語らせている
▼「人はパンのみで生きるにあらず」。知的な地平を広げる欲求も人間の本質である。(空)