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行雲流水
2018年5月29日(火)8:54

【行雲流水】(あの瞬間、ぼくは振り子の季節に入った)

 荷川取雅樹著『あの瞬間、ぼくは振り子の季節に入った』が高い評価を受け、注目されている。著者の記憶をもとに書かれたエッセー風小説である

▼宮古島平良で、友人たちと、自由に冒険や探検を楽しんだ無邪気な時代。そんな子どもの時代を終えて、心の振り子が揺れ動く時代。高校時代には、誰にでもあるように卒業後のことで葛藤。そして、島から羽ばたくはずだった。しかし、高校2年の時、交通事故に遭い、手足の自由を失い、高校を中退、長期の療養生活を余儀なくされる

▼そんな波乱の人生のなかで、彼は、一貫して自己を真摯(しんし)に見つめてきた。彼は、「僕は記憶を都合よく捏造(ねつぞう)しているかもしれない」と書くが、記憶を見つめる心の動き、それを膨らませた創造の世界が、この作品を感動的なものにしている

▼彼の文章力については一読者の声がすべてを語る。「文章が、記憶の引き出しを開けた瞬間に立ち会ったような気持ちにさせる」。彼は療養中に読書に努め、帰郷後、文筆活動に入る。そして、平成17年、『前、あり』で琉球新報短編小説賞を受賞、平成26年、『病院鬼ごっこ』でRBCSF・ファンタジー大賞を受賞している

▼彼は病院での苦しい闘病生活のなかでも、病院内のいろいろな場面から作品を紡ぎ出している。そして書いている。「平凡である、普通であるということは奇跡なんだよ」

▼彼は今、自然や社会、人間について、高感度のアンテナを張りめぐらしている。これからも、心身を大切に、多彩な作品を世に出されるよう、期待したい。(空)

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