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美ぎスマ
2018年7月29日(日)8:54

【美ぎ島】人頭税廃止運動ゆかりの地/下地地区入江集落

 115年前の明治中期、入江集落には宮古島の農民を苦しめた「人頭税」の廃止に燃える男たちがいた。城間正安(那覇市久茂地出身)と中村十作(新潟県出身)、川満亀吉(入江出身、嘉手苅村総代)らのリーダーたちだ。正安の住居跡や亀吉の生誕地には功績をたたえる碑が建つ。入江橋のたもとには宮古中の村総代(農民代表)が集まって、国会への人頭税廃止直訴などについて密談を重ねた、ゆかりの地「パチャガ崎」がある。集落周辺には宮古島の製糖業の産みの親・正安の思いが息づくサトウキビ畑が広がる。入江では與儀達敏(故人、元琉球立法院議長)や川満廣俊旧下地町議会議長らも誕生し、沖縄や宮古、下地地域の発展に尽くした。6月末現在の人口は177人(男性88人、女性89人)、世帯数は88戸。入江集落は嘉手苅集落の区域だったが、1948年に下地村から上野村が分村した時に、嘉手苅から分離した。

運命の出会い農民を救済/正安、亀吉の功績たたえる


亀吉の功績をたたえる碑

亀吉の功績をたたえる碑

 宮古の農民が宮古全体の税金を頭割(割り勘)で負担した過酷な人頭税廃止に奔走した亀吉(当時嘉手苅村総代=農民代表)は1867年入江の農家に生まれた。17~19歳のころには沖縄本島や慶良間、久米島に旅に出て見聞を広めた。「沖縄本島にない人頭税がなぜ宮古にはあるのか。何とかできないか」(亀吉の甥・洲鎌茂一さんの宮古地区老人クラブ大会発表文より)。旅をする中で芽生えたこの思いが、亀吉を人頭税廃止運動(1893年前後)に走らせる原点となった。川満家の庭には昭和60年ごろまで慶良間島から持ち帰ったと伝わるソテツ・愛称「ケラマソテツ」があり、亀吉の見聞欲の強さを物語っていた。

 亀吉は折しも総代のころ、サトウキビ普及を阻む人頭税に不満を持つ城間正安(1884年宮古の製糖教師に着任、89年辞職)と懇意の仲となった。城間が製糖教師(県

正安の功績をたたえる碑

正安の功績をたたえる碑

職員)を辞め那覇への帰郷を計画した時、引き止めて嘉手苅に住まわせたのも亀吉だった。生活に必要な畑や住宅を用立てし、嫁も紹介した。

 入江で生計を立てながら運動の先頭に立った城間は「全農民の団結を」と呼び掛けた。今では「城間が宮古を離れていたら、運動は成功しなかった」と、城間の功績が評価されるようになった。

 「ンキャーンカラ、シシュウピトゥンギ(昔から知っているような感じの人)」。1892年11月、城間は中村十作(真珠養殖目的に来島)と出会ったその時、「運命の引き合わせ」を直感したという。十作は養殖事業が遅れることにためらいもあったが、正義感の強い彼は正安や亀吉らの要望を受け運動のリーダーを引き受けた。

 廃止運動では役所や県庁にも出向いたが十分な成果は得られなかった。総代らはそこで抜本的解決を目指し、国会に直訴することを決定した。渡りに船でそこには国内事情に詳しく日本語ができる十作がいた。代表団は十作と熱血漢の正安、保良村総代平良真牛、福里村総代西里蒲の4人。一行は1893年月3日東京に着いた。正安が農民代表と東京の人たちとの通訳をした。亀吉は留守を守った。

 亀吉は4人の上京中、十作の真珠養殖会社の設立を支援する水産組合の組合員人の募集を達成した。資本金は1400円(一人当たり20円)。組合員は亀吉の地元嘉手苅の人が人と、宮古の部落中最も多い。

 「宮古島水産組合規約書」の原議書は亀吉の弟戸那(洲鎌家に婿入り)から4代目の洲鎌勝彦さんが保管している。用紙は和紙で赤い朱印や墨で書いた文字が今でも鮮明だ。勝彦さんは「十作さんへのお礼にと、なけなしの金を出し合ったと思う。嘉手苅の出資者が多いのは亀吉の信頼が厚かったからではないか」と話した。

 十作は農民たちの支援も得て宮古島のトゥリバーと奄美大島で真珠養殖場を造り成功した。京都に住んでいた十作はたびたび宮古島を訪れて、川満家とも親交を深めていた。正安は沖縄商船、宮古物産の2社を設立した。

 島外出身の十作、正安と亀吉ら宮古農民の出会いが島を変えた人頭税廃止運動は「運命のドラマだった」とみる向きも多い。パチャガ崎は昔のまま残され先人の思いを今に伝えている。

 1637年から266年間続いた人頭税は1903年の先島への地租条例と国税徴収法の適用を待って廃止された。人頭税は優遇された士族・役人と過酷な税に苦しんだ農民の対立構図だったといわれている。

 (参考、下地和宏さん=郷土史研究家、宮古島市史編さん委員会委員長=の論評、久場川光男著「宮古島の偉人」、洲鎌茂一さんの宮古地区老人クラブ大会発表文、亀吉の弟の子孫洲鎌勝彦さんの話)

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