行雲流水
2018年9月1日(土)8:54
【行雲流水】(囚人のジレンマ)
「囚人のジレンマ」は1950年に数学者のアルバート・タッカーが構築した論理で、利益を追求する個人の間でお互いに協力することが良い結果となることが分かっていても自己の利益を優先して協力しないという人間の心の揺れをゲーム化したものであるが、今日では社会科学の基本問題として経済学、政治学、社会心理学などの分野で研究され、生物学においても生物の協力行動を説明するモデルとして研究されている(ウィキペディア)
▼イギリスの生物学者リチャード・ドーキンスは著書「利己的な遺伝子」(紀伊国屋書店、40周年記念版)の中で「第三次世界大戦を阻止するためにその研究を進めなければならないと考えている」として戦場における人間の協力行動を囚人のジレンマをもって説明している
▼第一次世界大戦の戦場で対峙するドイツとイギリスの兵士の間には「非公式で暗黙の不可侵協定『われも生きる、他も生かせ』が2年間も通用した」ことに興味をもった、とドーキンスはいう
▼戦場での暗黙の不可侵協定は塹壕で銃の撃ち合いをした1910年代ではあり得たことだろうが、今の時代の戦ではどうだろうか。「われも生きる、他も生かせ」ということは報復能力を誇示することで相手を抑制することを意味する
▼そのことを踏まえて第二次世界大戦では「最初の二個の実戦用原子爆弾が(報復能力を誇示することなく)二つの都市を破壊するために使用された」ことについては満足のいく回答は得られていないとしながら
▼「相互にやり返しあいの連続になりかねない事態を鎮める」手段であったと認める。しかし、原爆の威力について認識のない相手に予告なしの使用は背信だし、最悪の選択であったということだろう。(凡)