行雲流水
2018年10月2日(火)8:54
【行雲流水】/『光につつまれて』
トミさんは18歳から102歳までの84年間、過酷な病気と理不尽な仕打ちにさいなまれながら宮古南静園で過ごした。しかし、温かい人柄故に皆から信頼され、親しまれた
▼中でも、若いころ看護師として勤務した阿部春代とは生涯にわたって稀有な絆を結んだ。春代は勤務していた当時、トミさんたち数人と聖書を読む集いを持っていた。その後、キリスト教の精神に則り、ハンセン病によってハンディを背負った人々を支援する公益社団法人・好善社によってタイ国に派遣されて28年になる。その間、春代はトミさんに会いに年2回は訪ねてくる。トミさんは、いつもそれを心待ちにしてきた
▼この2人のことを、山田たまん(垣花恵子)が小冊子『トミおばあとハルヨドリ』に書き、それをもとに、詩集『ひかりにつつまれて』に編んだ
▼トミおばあの悩みや苦しみの深さに胸が痛む。それでも、トミおばあは「世の中に悲しむ人がいませんように」と祈ってきた
▼春代はハルヨドリ。鳥だから、遠い国からでも飛んでくる。ハルヨの花の種を持って。不思議なことに、その種は誰にあげても、リュックはすぐいっぱいになる。与えても減らないもの、それは「愛」であろう
▼トミおばあは、大好きなハルヨドリやお世話になった園の職員、家族以上に心を通わせ合った同病の仲間たち、その優しさを集めて光のショールを編んだ。102歳の誕生日には、島外の元職員も駆けつけ、祝った。そして、トミおばあはしずかに旅立っていった。「ひかりにつつまれて」。(空)