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私見公論
2018年10月12日(金)8:54

【私見公論】菊野日出彦/新規で新奇?な作物

 宮古島の夏の風物詩、白い紙袋の中を開くと強烈な芳香と鮮やかな赤が目に入る。宮古島を代表する果実、アップルマンゴー(アーウィン種)である。マンゴーはインドやミャンマー、タイなどの東南アジアが起源地と言われ、アーウィン種はアメリカのフロリダで品種改良され、それが台湾を経て、沖縄にやってきた。

 沖縄のマンゴーの歴史は、1897年(明治30年)以前に導入されたと言われている。しかし、路地で樹は大きく育つが花の咲く時期の低温と降雨によって実がつかなかった。1970年に奄美大島の試験場でマンゴーの花の咲く時期から実のつく時期にかけてビニール被覆をする雨よけ栽培が確立したことにより、マンゴーの栽培が安定的にできるようになった。宮古島には1980年代に導入されたが、導入初期はあまり売れなかったという話も聞いた。しかし、今ではこのマンゴー、宮古島を代表する特産品になっている。宮古島のマンゴーの生産量は沖縄県が全国一、そして宮古島は沖縄県の中でも行政単位では一番である。つまり、現在では宮古島のマンゴーは日本一と言っても過言ではない。

 新規作物という言葉がある。宮古島に限ったことではないが、現在、ある土地に定着している作物は、過去の導入当時は「新規」で「新奇」な作物であった。前回の記事でご紹介した「ヤムイモ」も、現時点では、まだ新規で新奇な作物であるかもしれない。

 東京農業大学では1990年代からヤムイモ研究を始めた。2003年には東京農大宮古亜熱帯農場(以下、宮古農場)に、このヤムイモが研究材料として導入され、現在では宮古農場がヤムイモの遺伝資源の保存と研究の拠点となっている。ヤムイモはヤマノイモ属植物の総称であり、「とろろ」にするナガイモなどもヤムイモの仲間、沖縄では東南アジア起源のダイジョとトゲイモが伝統的に栽培されている。宮古農場では主に東南アジア起源のダイジョを中心として研究をしている。

 2013年に東京農業大学、東急電鉄、宮古観光開発および宮古島市で産官学連携協定を結んだ。これまでの東京農大の蓄積を生かした新規作物としてヤムイモを活用し、宮古島の原料を用いた新しい産品を作ることに挑戦した。品種の選抜、栽培方法、施肥基準に関する研究を行い、植え付けから収穫までのオール機械化による栽培が可能になった。プロジェクト開始から4年が過ぎ、昨年2017年にようやく製品化にこぎつけた。

 ヤムイモ焼酎「ずみ」というものである。昨年11月に那覇で開催された沖縄離島フェアで初めてお披露目された。宮古島の言葉で「最高」という意味の「ずみ」、これは宮古島産のヤムイモを原料とした焼酎である。あとは麹の米を宮古島で生産することができればもっといいのだが、これはまだ今後の課題である。

 宮古島の流入人口、つまり観光客の数は右肩上がりである。平成元年の観光客の総数は14万人であったが、平成28年では70万人まで増加した。今後、下地島空港の開港などを踏まえると、観光客の流入は今後さらに増していくことが予想される。

 現在、宮古島で島の農産物で作った産品は何があるのだろうか? マンゴーなどその一つになるが、まだまだ他の品目では少ない。宮古島で栽培できるヤムイモは焼酎原料ばかりでなく、青果としても利用できる。冷凍「とろろ」の原料としても利用できる可能性もあるだろう。

 私は2012年にこの島に来た。まだまだ「新規」かもしれないが、研究はヤムイモをはじめとして新奇で新規な作物を対象としている。

 来月11月24日に宮古島(会場はJAおきなわ)で実践総合農業学会の地方大会が開催されるシンポジウムでは宮古島のこれからの農業の課題について議論される。私の新奇で新規な作物のお話の詳細はそちらでお話しします。興味のある方はぜひ会場まで。(東京農業大学教授)

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