行雲流水
2018年12月25日(火)8:54
【行雲流水】(第九よ響け)
年末の風物詩、ベートーベン作曲の「交響曲第九番」が各地で演奏されている。わが国で「第九」を歌う人口は20万人を超えると言われる。12月29日午後4時からは、佐渡裕指揮で「サントリー1万人の第九」も演奏される
▼崇高で華麗なこの曲は、記念すべき特別な時にも演奏されてきた。ベルリンの壁が撤去され、ドイツが統一されたときには東西の音楽家が一堂に会して演奏した。長野オリンピックの開会式には、小澤征爾の指揮で、世界の5大陸で同時に演奏され、その映像が世界中に放送された▼ベートーベンは若い頃にシラーの詩を愛読し、その中から「歓喜に寄す」を、「第九」の終楽章の合唱に取り入れた。彼は病苦や貧困、人間関係上の確執などの悩みの中で崇高な楽曲を数多く生み出した。まさに「苦悩をつき抜けて歓喜に至る」である
▼米中の覇権争い。軍拡競争。格差による貧困の拡大。気象変動で砂漠化がすすむアフリカ。つまはじきされる移民、難民。今、世界は病んでいる▼「第九」は独唱で歌い出す。「おお、友よ、このような調べではなく、もっと快い、歓喜に満ちた歌を歌おうではないか」。つづいて、「汝の神秘な力は引き裂かれたものを再び結びつけ、汝の優しい翼の憩うところ、人々はみな兄弟となる」。そして、「百万人の人々よ抱きあおうではないか」と高らかに歌い上げて曲は終わる
▼『ベートーベンの生涯』の著者ロマン・ロランは語る。「彼の実例によって、人生と人間とに対する人間的信仰を改めてわれわれの内に生気づけようではないか」(空)