行雲流水
2019年7月23日(火)8:54
【行雲流水】(光子の裁判)
朝永振一郎の作品に「光子の裁判」というのがある
▼ある家に部屋AとBがあり、Aで事件が起こる。その時光子がAにいたという守衛の証言により光子は裁判にかけられる。ところが弁護士は、その時光子はBにいたという確かな証拠を提出、アリバイを主張する。検事と弁護士の議論は延々と続くことになる
▼ところが、裁判は光子の夢の中のことで、目が覚めると、光子の胸にはディラックの書いた『量子力学』の本があった。そこには、光は粒子と波動の二重性を持つと書かれている。不可分の粒子なら、BにあればAにはいないというアリバイが成立する。しかし、波動であればA、B両方のスリットを同時に通り抜けることができる、というわけである。ちなみに、光の二重性はアインシュタインが「光電効果」で示し、ノーベル賞に輝いた理論である
▼もうひとつ、朝永振一郎には『鏡のなかの世界』という著書がある。「鏡の中の世界では右と左が現実と逆になっている。しかし、上と下は逆になっていない。なぜか」。この命題について理化学研究所では議論が交わされたが、みんなが納得する理論は出ず、結論はお預けになった
▼ところが後に、中国のリーとヤンが「パリティー保存則の破れ」(素粒子は鏡像反転の前後で物理法則が同じには保てない)ことを発見、二人はノーベル賞を受賞する
▼それにしても、科学者たちの示す神秘に満ちた宇宙は限りなく美しい。宇宙は、宇宙で誕生した意識を持った人間において、自らの存在の様式を開示していく。(空)