未来の水産業担う/養殖、種苗生産に活力
離島県の離島である宮古地域において、島の周囲に広がる広大な海からの恩恵は計り知れない。島の水産業を取り巻く環境はいろいろな課題もあるが、車エビの養殖は四半世紀の歴史を刻み、全国的な知名度も向上している。さらに、2018年には初めてシャコ貝の一種であるトガリシラナミの種苗生産に成功。19年には有償譲渡につなげた。豊富な海からの恩恵を受けながらも、限りある資源を守ることにもつながる養殖と種苗生産は、島の水産業の未来を担うとともに、水産業全体に活力を与えている。
宮古ブランド浸透/車エビ養殖が25年
四半世紀の歴史刻む
昨年11月に行われた宮古島漁協(儀保正司組合長)の車エビ初出荷式。高野で始まった車エビ養殖は25年目を迎え、宮古島の海で育った車エビの味は四半世紀の間に全国各地に発送されて好評を博してきた。
18年度までの養殖車エビの出荷トン数は、約555㌧。売り上げは約28億4500万円となっている。
今年度も東京の豊洲市場など、全国各地の市場に向けて出荷された宮古島産の車エビ。生産量は平年並みの30㌧以上、売上げも1億4000万円を見込んでいる。
しかし、養殖車エビの生産は、試練との闘いでもあったという。
同漁協車エビ養殖場の伊良部昌也場長は「過去には病気が出て、全滅に近い状態になったこともあった。車エビには抗生物質の使用が禁止されているので病気がまん延するとどうしようもなかった」と振り返る。
それでも、生産技術を向上させる努力を継続し、ここ数年は平年並みの生産量が確保できている。
最近の宮古島産車エビについて、伊良部場長は「昨年末にも全国放送のテレビ番組で全国のおいしい食材でつくるおせち料理の材料として、宮古島の車エビが取り上げられた。どんどん知名度が広がっているので、これからが楽しみ」と笑顔になった。
全国に届けられる以外にも島内でもその味は人気だ。リゾートホテルや焼き肉店、寿司店などからも注文が相次ぎ地元、観光客にも喜ばれている。
伊良部場長によると、天ぷらで人気のサイズは20㌘。焼き肉店は大きめを好むという。
一番おいしい食べ方については「もちろん生で食べるのもうまいが、焼いて食べると香ばしくてさらにおいしい。でも、焼き過ぎると固くなるので注意が必要」と話した。
今年1月からは、観光情報誌にも宮古の車エビを掲載して、観光客向けの贈答品としてもアピールを予定している。
25年の歴史を刻んだ島の養殖車エビ。さらなる販路拡大に向け、今後もいろいろな取り組みが計画されている。
初の種苗生産に成功/シャコガイの一種(トガリシラナミ)
養殖事業加速に期待
「海の味を堪能できるから大好き」-。南国の海の幸としてその味が観光客からも好評を博しているシャコ貝。県内には6種類のシャコガイが生息し、そのうちの一種トガリシラナミの種苗生産が2018年に宮古で初めて成功。19年に掛けて有償譲渡も行われ、今後、漁業者による養殖事業の加速に期待が高まっている。
同種の種苗生産の取り組みが展開されているのは、市海業センター(旧宮古栽培漁業センター)。1985(昭和60)年8月開所以来、30年余で初めての成功となった。
初のトガリシラナミの種苗生産では、生産2万8168個のうち、有償譲渡は7468個。実際に種苗生産に取り組む市水産課の技師・島田剛さんは今後のさらなる技術の充実に意気込んでいる。
沖縄に生息するのは、ヒメジャコ▽ヒレジャコ▽シラナミ▽トガリシラナミ▽シャゴウ▽ヒレナシジャコ-の6種類。
6種とも食べられるが、一番味が良くて人気の高いのはヒメジャコ。同種は以前から種苗生産されているが、小さめの種で成長が遅いという。
こうした課題を克服してくれそうなのが、ヒメジャコに味が匹敵するといわれているトガリシラナミだ。
荒波のあるリーフ外に生息し、殻長は最大20㌢以上に成長。食用として刺し身やバター焼きで好まれているほか、近年は観賞用としても人気が高い
18年に初めて種苗生産は成功したが、まだまだ生産技術が確立していないこともあり、19年は種苗生産できなかった。
島田さんは「これから、さらに種苗生産技術を向上させ、安定的に生産し養殖生産につなげていきたい」と意欲を示した。
シャコガイの一部の種は、漁業調整規則で取れる大きさに規制がある。小さいサイズは採れないし、大きくなると味が落ちる。
その点、種苗生産による養殖は大きさを見極めながら種により異なる食べ頃のサイズを検討することもできるという。
島田さんは「観賞用としても人気が高いので、種苗生産の際にはできるだけ色がきれいな種を掛け合わせるようにしている。食用にしろ、観賞用にしろ自然界ではなく種苗生産で個体を確保できれば環境保全の面からも良いことだと思う」と話した。