日本は世界的な食糧危機に対応できるか(その2)/砂川 光弘
私見公論 23
食料は人間の生命の維持に欠くことができないものであるだけでなく、健康で充実した生活の基礎として重要なものです。したがって国民に対して、食糧の安定供給を確保することは、国の基本的な責務であると位置づけ、「食料・農業。農村基本法(平成11年法律第106号)」により「食糧の安定確保」がうたわれている。
当法律第2条第2項では「国民に対する食料の安定的な供給については、世界の食糧の需給及び貿易が不安定な要素を有していることにかんがみ国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行われなければならない」としている。つまり、これまでは安定的に食料を確保できたが、世界の食糧の生産需給および貿易は不安定であると認識しているのである。
現在、世界の食糧生産を不安定にしている要素には、米国産牛肉の狂牛病(BSE)、鳥インフルエンザ等、家畜伝染病の世界的なまんえん、世界各地で頻発する異常気象による減産等が考えられ、その中で世界最大の農産物輸入国である日本は重大な危機に直面している。大正時代の米騒動で地元優先で米を県外に移出することを渋った知事もいたとのことである。いざ食糧危機となった場合、日本国内でもそうであるように、まして自国民を犠牲にしてまで日本へ食料を供給する国はないであろう。
さて、世界の食糧生産の不安定要因として、家畜伝染病と異常気象を挙げたが、今食料生産輸出国が直面している課題は、最も基本的な生産手段である農地と農業用水の問題である。世界の穀物生産の40%がかんがい耕地で生産されていると言われており、その源泉は地下水である。地下水は億年前に誕生した地球の歴史の中で蓄えられ、石油と同様に有限である。食料生産輸出国ではその地下水の枯渇が大きな課題となっているのである。
3大穀物生産国の一つであるインドは、その地下水を活用して食料を生産し1970年代には食料自給率100%を達成した。反面、地下水が枯渇し120㍍の深度まで井戸を掘らないと取水できなくなっている。米国のカンザス州においても年間に地下水の水位が3㍍も下がっているとのことである。これらの地域の年間降水量は500㍉で、地下水を元に戻すには1000~2000年かかると言われている。
東大生産技術研究所 沖大幹氏等グループの試算では牛肉1㌔=穀物10㌔を生産するのに20㌧の農業用水が必要であり、日本の輸入する食料の生産に要する農業用水は6000億㌧とのことである。現在の食料生産を維持する上で農業用水の確保は大きな課題である。
世界の食糧生産でもう一つの課題となっているのが耕地であり、耕地の問題は作物の生育に適した肥沃度と面積の確保である。日本の耕地面積は昭和35年に607万㌶あったが、毎年減り続け、平成5年には469万㌶になったように(農水省「日本の食料生産」)世界の耕地面積も減少傾向にある。人口の増加に伴う山林伐採による耕地面積の拡大は地球環境との関わりで、今後は一層難しくなるであろう。
もう一つの耕地の問題は土壌流出による土壌の劣化と乾燥地域における耕地の砂漠化である。現在、世界では1年間に500~600万㌶の農地が砂漠化していると言われている(関東農政局「世界の農地資源」)。
つまり、これまで大量の化学肥料と地下水を使って経済的に効率よく食料を生産してきた農法が、地下水の枯渇、土壌の劣化を招き持続不可能となってきているのである。こうした状況に対応して国は国民に対し安定的に食料を供給するためには、「市場原理」「貿易の自由化」を掲げて米国農産物の輸入を拡大してきた政策を見直して、日本農業の再構築に向けた抜本的な政策転換が必要である。