今を生きるわれわれが次の世代に引き継ぐもの(食料)/前里 和洋
私見公論 44
わが国は、化石燃料や主要な化成肥料原料など重要な天然資源にほとんど恵まれない国である。世界各地から原料等を輸入し、加工技術を駆使することで工業製品を大量に生産し諸外国に輸出、戦後奇跡的な経済発展を遂げた。しかし、右肩上がりの工業製品を中心とする経済発展は鈍化し、かつて発展途上といわれた国々は教育・人材育成に投資し、今では新興国として目覚ましい経済発展を遂げている。その中国、インドは世界人口の大部分を占める国民の食料確保のため農産物の輸出国から輸入国へ転じてもいる。
日本の食料自給率は39%と低い。農業は国の基盤であるが、日本以外の各国が自国で「食料」の自給率向上に重きを置いているのに比べ、日本の農業政策は軽視されてきたように思える。日本の農業が厳しい状況にある中で、先進国の食料自給率を見てみると、アメリカ130%、フランス121%、カナダ223%であり持続的農業が展開されている。今世紀には世界人口は100億人を突破すると言われ慢性的な食料不足が懸念される。食料自給率が20%台になったら、相当数の日本人が餓死する可能性があると言われる。昨年、東北地方を襲った未曾有の震災は、多くの尊い人命を奪っただけでなく、豊かな農地が津波の影響により塩害を受け、福島では原発の放射能被害により今でも作物が植え付けできない状況にある。
世界人口は70億人を突破し人口爆発の中、世界の農地で生産される食料は不足している現状である。国民の生活基盤である食料やエネルギーでも日本は他国に強く依存する国造りをしてしまったのではないか。石油エネルギーを即、再生バイオエネルギーへ転換とはいかないが、食料生産については地産地消をすすめ地域の食料自給率を向上させることにより、国の安定した食料生産につながり他国に過度に依存しない国家となる。
「水のノーベル賞」といわれるストックホルム世界水会議の今年のテーマは、「水」と「食」である。現在、地球規模で水資源の枯渇や汚染が拡大している中で、日本は外国から「食料」の形で膨大な量の水を輸入している。今、世界の人口の約12億人が水不足に苦しみ人命も危機にさらされている。国連や世界資源研究所などの国際機関は「20世紀は領土紛争の時代であったが、21世紀は水紛争の時代になる」、「世界の水不足は今世紀の最も緊急な資源問題になる」と警告している。世界的な「水問題」を解決するには、わが国の食料自給率を高めることも必要である。
沖縄県の平成22年度の食料自給率は34%と低い。宮古島は、基幹産業が農業でありながら食料自給率はさらに低い。その主な要因として台風などの自然災害があり、台風や干ばつに強いサトウキビが基幹作物として栽培され、粗糖は島外に移出される。そのサトウキビは、島民の生活を支えてきた重要な甘味資源作物である。今後、サトウキビと食料作物との輪作は、宮古島で食料を生産する鍵である。
将来、宮古島が持続的に発展していくためには島民が生活するのに必要不可欠な「水」と「食料」を守り、確保することが今を生きるわれわれに問われている。食料生産の基盤は土作りである。化学肥料が無かった時代に先人が苦労して有機物を土壌にすき込み、豊かな農地を今に引き継いでくれた恩恵で現代の農業は行われている。現代農業の象徴である化学肥料は、肥料3要素のうちリン酸源であるリン鉱石の世界的な枯渇が懸念され価格は上昇し農家の経営を圧迫している。わが国はリン鉱石を全量輸入に頼っているが、アメリカや中国は日本へのリン鉱石の輸出を停止した。それは自国の農業を保護し食料を生産するためである。今こそ有機物を島内で循環し農地に施肥することで、化学肥料の依存度を減らし、土作りを通した地下水保全と安定した食料生産につなげ地力の高い農地を次の世代に引き継ぐことが、今を生きるわれわれの責任である。