行雲流水
2012年10月15日(月)23:45
「ドーナツ」(行雲流水)
パスカルの言葉に「人間は一本の葦にすぎず自然のなかで最も弱い存在である。だが、それは考える葦である」というのがある。考えることにはいろいろあるが、数学は純粋に思考で成り立つ典型である。それに魅入られると、その他のことは目に入らないようである
▼文化勲章を受章した岡潔は、日常生活には無頓着で、貧乏生活をしながらも研究に熱中、いい考えが浮かぶと散歩中であってもしゃがみこんで石や木片を拾い、数式を書きこんで考え込んだという
▼朝のドラマ「梅ちゃん先生」の松岡医師はドーナツの穴について考える。「ドーナツは真ん中に穴があいていることによってドーナツと特定できる。だからこの穴はドーナツの一部といえる」
▼ところで、この100年、多くの天才たちが格闘してきた難問「ポアンカレ予想」の証明をついにロシアの数学者ペレルマンが果たし、宇宙の形がドーナツ型でないことを証明、他の八つのとり得る形を明らかにした。彼は数学のノーベル賞と言われるフィールズ(賞金100万ドル)に選ばれたが、それを辞退して、母親とひっそり暮らしているという
▼現代の数学に未解明のまま残された問題のうち最も重要と言われる理論「ABC予想」を京都大学の望月新一教授が証明した。解決に350年かかった「フェルマーの最終定理」もこの予想を使えば一気に証明できるというものである
▼経済至上主義が世界を席巻しているが、人間の本性が求める多様な価値の存在を数学の天才たちは示唆している。