境界線/粟國 雅博
私見公論58
尖閣周辺が騒がしい。2010年9月7日に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突をしてからというもの、日本と中国、台湾と小競り合いが続いている。先の政権が尖閣諸島を国有化してからさらに激化し、毎日のように中国政府が関与する船舶(公船)が日本固有の領土である尖閣周辺の接続水域、あるいは領海内に侵入するという非常事態が当たり前のように続いている。
今年の2月18日には、八重山漁協所属の漁船が複数の中国公船に1時間半にわたって追跡されるという事件が起こった。それも公海ではない。追跡が始まったのは尖閣の領海内である。追跡された漁船は、接近してきた中国公船に気付いた海上保安庁の巡視船2隻に石垣港に入港するまで護衛され無事戻ってこれた。追跡された船長は証言で、「海上保安庁がいなければ進路をふさがれ止められていただろう。拿捕されるかもしれない」と感じたと話している。自国の領海内で逃げなければならない矛盾にあきれ返る。
ここで少し、領海、接続水域、排他的経済水域、公海について記しておきたい。(図参照)領海とはわが国の海岸基線から12カイリ(約22㌔)で囲まれる範囲内のことで、接続水域は領海からさらに12カイリの外側の水域を言う。排他的経済水域(EEZ)とは海岸基線から200カイリまでの範囲のことで、それ以外は概ね公海である。
さて、尖閣の問題については、尖閣諸島のいちばん近い大正島(赤尾嶼)でも宮古島から85カイリ(約157㌔)以上離れていることもあり、早急に避難港を整備することを日本政府に要望したい。また、安全操業ができるように水産庁や海上保安庁にも警戒警備をお願いしたい。
他にもいろいろと言いたいことはあるが、われわれ漁業者には他にも大きな問題が存在している。それは近隣外国との漁業協定である。恥ずかしながら最近知ったことではあるが、日本政府と中国政府は「漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」を1997年11月に調印し、2000年6月に発効した。いわゆる「2000年新協定」が存在する。その中身について事実を知らされたときには、あまりにもひどすぎるその内容に驚いた。新協定で指定されている協定水域範囲は両国の排他的経済水域を対象とすると規定されているが、両国の排他的経済水域が重なり合う東シナ海においては特定の水域を指定して協定の適用から除くとしている。特に尖閣諸島の北方から沖縄先島諸島近辺に関しては、「北緯27度以南水域」という特別な水域が設定されている。図の斜線部分である。北緯27度線から南の海域であって、沖縄本島南部の喜屋武岬から東平安名崎まで線を引き、さらに東平安名崎から真南に囲まれた水域だ。その北緯度以南水域では中国漁船は自由に操業していいことになっているのである。尖閣諸島の接続水域内や、沖縄本島と宮古島の中間で中国漁船が操業してもわが国の取締権限を行使することができないのである。宮古島や八重山諸島の南側の領海ライン際で操業も可能だ。
日中漁業協定では、北緯27度以南水域同様に相手国の漁船に対して取締権限を行使できない水域が北緯27度以北にも存在する。「暫定措置水域」と呼ばれる同水域においては相手国漁船の違反を発見した場合は、その漁船に注意を喚起すると共に、相手国に対して通報するとなっている。しかし、「北緯27度以南水域」ではいかなる操業をしていても、協定では中国側に通報する仕組みにはなっていないのである。
最近は、沖縄本島と宮古島の中間あたりにも中国漁船が多数出没しているのを出漁した組合員がたびたび目撃している。沖縄本島と宮古島の間には重宝曽根や宝山曽根といった、まさに宝の漁場が残されている。そこで中国漁船は数十隻の船団を組み、宝石用のサンゴを乱獲し続けているが、現在の日中漁業協定では日本の国内法が及ばず違法行為として取り締まることはできないのである。
ちなみに中国側はサンゴ漁の許可を出していないと聞いているが、仮に日本側が係る状況を中国側に通報しても、中国政府が取り合わなければ何らの罰則も与えられず、さらには、該当漁船は船体番号や船名を偽装しているため該当漁船を特定することができない状態であり、極めて悪質な漁船団でありながら日本側でも中国側でも何もできない、まったくもってあきれかえってしまう協定内容である。自国の漁船の管理もできない国と対等に協定を結ぶことなど意味があるのだろうか?(日台漁業協定につづく)