親が子供をしつける場合の効果的叱り方
日本親業協会親業インストラクター 福里 盛雄
1 子どもの能力や人格を傷つけない
なぜ、私たちは子を叱るのでしょうか。それは、子どもの行為やことばが、他人に対して良くない感情を与えた場合に、その子どもをしつけるために子どもを叱り戒めます。
ある書物の中での夫が妻に対して戒めている例話ですが、これは、親は子の良くない行為やことばを戒める場合にも適応できると考えますので、参考のために紹介しましょう。
ヨブは恵まれて多くの財産と働き人を持っていたが、次々とそれらを失い、自分の体も足の裏から頭の頂まで、悪性の腫瘍で痛みつけられ、まったく別人のように変わり果ててしまった。彼の友人たちも、本人とはなかなか見分けることは容易ではなかった。慰めに来た友人たちもことばを失い、ただ黙して側に寄り添っているだけで、慰めのことばの一つもかけずに帰っていったというのです。彼の妻も、あまりの夫の苦しみに耐えかねて、夫ヨブに対して「神をのろって死になさい」と言いました。その妻のことばに対して、「このばか者」とは言わずに、「あなたは、この世の愚かな女の言うようなことを言うね」と戒めたというのです(旧約聖書ヨブ記2章9~12節参照)。
私たち親は、この例話の夫の妻に対する戒め、叱り方を大いに参考にすべきだと考えます。この例話は私たち親に対して、子の叱り方の教訓を示しています。
2 子どもを叱るときは、子の行為のみを対象にすること
この例話に登場するヨブ夫は、妻のことばによって心を傷つけられたと思います。それでも夫は、妻の能力や人格を卑下したり、批判したりはしていません。この夫の妻に対する戒めのことばから推察できるのは、「お前は賢い女なのに、どうしてこの世の愚かな女の言うようなことを言うのか、お前は賢い女なんだから、世の愚かな女のことばを真似てはいけませんよ」ということを考えながら戒めたと思います。
さて、それでは、私たち親は、子どもが他人に対して親切等の思いやりの行為をした場合は、心から子どもの能力を高く評価して、未来に向けての可能性に自信を持たせるように対処しなければなりません。子どもがしてはいけない行為をし、するべき行為をしなかったときは、その行為自体を強く戒めなければなりません。すなわち、子を叱るときは、その行為の善悪を明確に指摘しなければなりません。
ある精神心理学専門家の指摘によると、人の自己意識には五つのレベルがあって、一番下位から、環境、行為、能力、価値観信念、存在と次第に上位へと移行するそうです。その専門家は、その本人が精神的ダメージを感ずる度合いは、自己意識の下位から上位への順位序列に比例すると指摘しています。子どもが悪い行為をした場合に、子の存在価値が否定されたり、能力が否定されたりすると、子どもは自分は存在価値がないんだ、生きていても何の価値もないと考えるようになり、生きていく自信と生きる希望を持つことが難しくなります。良い子に育てていくためには、しつけはどうしても欠かすことはできない。しつける過程では、ある場合は子を叱ることも必要です。子どもは親たちの叱り方によって反省したり、やる気を与えられたりします。それとは反対に、叱り方によっては子をだめにしたりします。正しい叱り方は、子の成長の大きな栄養剤の効果を発揮します。子の成長の栄養剤としての叱り方は、子の存在価値や能力を対象としないで、行為自体のみを対象とし、行為の正しい基準を、親は教える責任を負っています。