行雲流水
2014年1月18日(土)8:55
「キビの尾花」(行雲流水)
故向田邦子さんのエッセー「眠る盃」は、土井晩翠作詞、滝廉太郎作曲の「荒城の月」の一節「めぐる盃かげさして」を「眠る盃」と覚えてしまい、以来、なかなか言い直せない思いをつづった名著だ。「泣くな子鳩よ」という歌を「泣くなトマトよ」と歌っていた幼い妹をいじめたことも紹介してあり、昔のサラリーマン家庭のほのぼのとした雰囲気が行間から伝わってくる
▼直木賞作家の向田さんも間違うのだからというわけではないが、「見わたせば甘蔗のをばなの出そろひて雲海のごとく島をおほへり」の甘蔗を今まで「カンシャ」と読み違えていた。実は「キビ」と読むそうだ
▼この短歌は宮古島出身の故宮国泰誠さんが一面にキビの尾花が出そろい、柔らかく波打つ風景に心を打たれ詠んだ短歌として有名だ。1970(昭和45)年の宮中歌御会始入選歌である
▼なぜ間違って覚えたかは定かでないが、周囲からは「カンショ(サツマイモ)と覚えていないだけでも良かった」と妙な慰められ方をしたが、恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちだった(この表現も間違っていないか)
▼今後間違えないためにも、短歌にある光景を頭に刻もうと車を走らせたが、昔のような「雲海」には出合えなかった。聞くと、多種多様な品種が栽培されていることから、一斉に尾花が出そろうことは少なくなったという。島はキビ刈りシーズン。重労働の中にも陽光を浴びて風に揺れる尾花が一服の清涼剤になればと思う。