行雲流水
2014年3月6日(木)8:55
「確定申告」(行雲流水)
農業を営むK先輩は、昔気質の努力家だ。二宮金次郎を手本に、日の出から起き出し、星が出るまで働く。出費を惜しんで、収穫時にも他人を雇わない。倹約したお金で畑を買い、サトウキビの出荷台数を増やしてきた。そのK先輩が「国の税制は怠け者の味方をしているのでは」とぼやいた
▼努力した結果、昔は課されなかった所得税を徴収されることになったという。辛苦に耐えて達成した成果はほめられこそすれ、徴税という仕打ちはないだろうとの言い分だ
▼おそらく、所得が課税最低限度額を超えたのであろう。「納税するまでに豊かになったことを誇りに思うべきでは」とたたえたが、ふに落ちない表情だった
▼課税の対象となる所得の算定は複雑だ。たとえば給与所得の場合、課税最低限度額は単身114万円、夫婦のみ156万円、夫婦子1人(高校生)220万円などと家族構成で異なる。基礎控除のほか配偶者控除や扶養控除があるためだ。これに社会保険料などの諸控除が加算され、この限度額は変化していく
▼事業所得や農業所得は、収入から必要経費を差し引く作業がさらに加わるから面倒だ。そのためか、所得の捕捉率を「クロヨン」などと揶揄する向きもある。サラリーマンの所得は9割方把握されているのに対し、商売人などは6割、農民は4割しか把握されていないのでは、との疑問だ
▼確定申告たけなわだ。床屋でも居酒屋でも税談義が聞こえる。公平性、徴税実務の簡素化、時の政権の政策実現手段などをめぐって、話の種は尽きそうもない。