観光入域客数50万人突破に向けて(2)/下地 信男
私見公論85
2020年夏のオリンピック招致レースを日本(東京)が勝ち取った。その決め手となったのは日本招致委員がアピールした日本のおもてなしの心、つまり日本人の持っているお客様の立場に立った心に届くサービス姿勢がIOC委員の心をつかんだとされている。オリンピックの開催に当たっては競技施設や会場エリアのアクセス道路等のインフラ整備はもちろんのこと、世界各国から訪れる人々を温かく迎え入れるホスピタリティの提供こそ重要な要素となるということであろう。このことは観光地においてより多くの来訪者を招き入れる条件によく似ている。
私たちが旅行する場合、当然のことながら旅先の人々にお世話になり、その地域と関わりを持つことになる。そこでの出会いが素敵なものとなったか否かが旅の善し悪しを決めると言っても過言ではない。訪れた観光地の玄関では色鮮やかな花々が迎えてくれる。移動するバス・タクシーの運転手や乗務員は親切で笑顔がとても優しい。案内役のガイドのさわやかな語り口や現地の人々の細やかな気配りに癒やされ心が和む。別れ際は手をちぎれんばかりに振ってくれる。ホテルに到着するとフロントでは満面の笑みが待っている。「外食のいい店を紹介して」との申し出にも、近辺の地図を示しながら、道順やオススメの食事を懇切丁寧に教えてくれる。紹介されたお店に入る。やはり注文は地元の食材を使用した郷土料理と地酒だ。一つ一つの注文の品にスタッフが細やかな説明を入れてくれる。なるほどとうなずきつつ、ここに至る当地の人々の親切な対応に感激しながら、ついついお酒や料理が進んでしまう。ほろ酔い気分で宿に戻り、明日もきっと楽しい出会いが待っているに違いない。期待を胸にベッドに入る。
観光産業は感動産業である。観光地における体験、地域文化とのふれあい、人々との出会い、地元グルメ等は訪れる者にとって非日常的な感動に満ちあふれている。感動の素材は人それぞれであるが、地元の「人」もまた感動を与えてくれる重要な素材である。先の事例は関わった「人」に恵まれハッピーな旅行ができた事例である。さりげなく温かいおもてなしは観光地に求められる大事な要素である。このような満足体験をした旅人は帰途につきながらもまた次の再訪問を考えることであろう。きっと友人知人にも旅の感動体験を誇らしげに語り、今度は一緒に行こうと誘うことになる。
その逆のケースを考えてみよう。自然豊かな観光地であるが、人々の対応が何となくよそよそしく愛想がない。「こんなところに何しに来たんだ」という顔でのぞき込む。タクシーの運転手は運転中にいきなり携帯電話を手にした。いつ事故るか心配でしょうがない。街は雑然としていてウエルカムの気持ちが全体的に乏しい。観光地におけるゴミの多さやトイレの汚いのには愕然とした…。先の事例とは雲泥の差である。観光客は地域の雰囲気に敏感であり、このような体験をした者はリピーターとしての再来訪はほとんど期待できない。
観光地として発展していくポイントはそこにある。観光客を増やし観光産業を発展させるためには、あらゆる分野で「訪れてよし」の雰囲気をつくらなければならない。その中でも特に大事なことは市民全体が「ウエルカム」の気持ちを持ちながら観光に対する意識を高めていくことにあると考えている。願わくば市民一人一人が観光産業を支える「人材」となることを期待したい。「人材」というのは少し大げさな表現かもしれないが、市民の笑顔やおもてなしこそが最高の観光資源である。このことについて本市観光振興基本計画では「豊かな自然・市民こそ最大の観光資源」であると明確に謳っている。宮古島らしいさらなる観光振興のために、宮古島の財産である「自然や人」を中心として、市民の一人一人が観光客を笑顔で温かく迎えること。また、美しい自然を大切にした癒やしのある空間づくりを進めることが宮古島観光を支える大きな力となり、島を豊かに発展させていく素地となる。
(しもじ のぶお・宮古島市観光商工局長)