ＮＨＫの番組「トルストイの大地」は理想社会の建設を目指したトルストイが開いたコミューンを、作家・詩人の辻井喬が歴訪する番組である。映像は、今でもその精神を継承して、貧しくとも大地に根を下ろし、素朴に生きる人々の姿をとらえている

▼トルストイは理想と現実の間で悩み、それでも、晩年まで庶民の幸せを求め続けた。また、過酷な時代に翻弄されながらも人々はたくましく生きてきた。その姿が感動を呼ぶ。この番組に限らず、ＮＨＫの優れた作品は、視聴者に感動と新しい発見の喜びを与えている

▼「ＮＨＫ沖縄」は、沖縄戦の記憶を風化させないための努力や、沖縄の文化に向ける温かいまなざしで、県民に信頼されている

▼国民はＮＨＫが公共放送としての使命を正しく果たすことを期待する。だから、その予算案は国会でこれまで全会一致で承認されてきた。しかし、今年は違った。言うまでもなく「会長や経営委員の問題」の故である

▼「従軍慰安婦はどこの国にもあった」との会長発言や「南京虐殺はなかった」、「（都知事候補者）を人間のくず」などと発言した百田経営員、それに、新聞社で短銃自殺した右翼活動家の追悼文を書いた長谷川委員。野党はこの会長と２経営委員の罷免を求めた。２万通余の国民からの抗議があり、ＮＨＫ元ディレクター池田恵理子は局内の職員の萎縮（自己規制）を心配する

▼ジャーナリズムは不偏不党、すべての権力のチェックを使命とする。ＮＨＫの自助努力と、国民の監視が求められる。