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行雲流水
2014年5月10日(土)8:55

「梅雨入り」(行雲流水)

 昔、シュウマンボウシュウと大人たちが言っていた。しとしと降る長雨のことだと子供ながら理解していたが、小満・芒種のことだと気づいたのはずっと後になってからである。農家は長雨に入る前に大豆の取り入れを急いだ。季節の流れの中で人々が暮らしていた時代である

▼雨が降ると、収穫時にこぼれた大豆が芽を出してくる。天然のもやしが畑の隅でたくさん取れた。雨は二日も三日も降り続くこともあって外出もままならない。子供たちは雨の合間を縫って隣に行く。ちびた下駄は形ばかりで言い訳にもならないはだし同然のぬれた足で空床(からゆか)に上がるが、親たちはとがめるようなことはしない

▼雨の日に学校へ行くのに傘やレインコートなんてあるはずもなくぬれるしかないが、親は麻袋を手にしてこれをかぶれと渡す

▼麻袋、大豆や麦といった穀物を詰める袋で平良ではチョウチンガーという、麻袋を中折りにして頭から被って雨をしのいだつもりだが大雨になるとなんの役にも立たないうえにずっしりと重くなる。じかにぬれなければいいといっただけのことだ。豊かでなかった時代の梅雨時の子供たちの姿である

▼貧しかった頃の雨にまつわる話はわびしくもあり悲しくもあるが、時には腹を抱える大笑いの話もあって、雨は子供たちの心を育んでくれる天からの贈り物だった

▼シュウマンボウシュウとは聞くこともなくなって梅雨入りと言われるが、その言葉には人々の暮らしがうかがえるものはないし、心に響くものも感じられない。時代とともに言葉も人の感性も変わるものだと、梅雨入り情報をききながら思った。

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