行雲流水
2015年1月20日(火)8:55
「宮沢賢治」(行雲流水)
宮沢賢治の作詞・作曲した『星めぐりの歌』が銀河の彼方からかすかに聞こえてくる。「オリオンは高くうたい、つゆとしもとを落とす。…」
▼『雨にも負けず』は東北の各地で朗読され、震災に遭った人々を慰め、励ましてきた。作品に表現されている賢治の思想や生き方そのものが人々に勇気を与えているに違いない
▼世紀になって、世界はますます混迷を深めている。相いれない「正義」たちの間で暴力の連鎖が起こり、多くの人命が失われている。また、弱肉強食の世界で格差が広がり世界を不安定なものにしている
▼『銀河鉄道の夜』で天国へ行こうとする若者たちにジョバンニは言う。「天国なんか行かなくていい。僕たちはここで天国よりもいいところをこさえなくてはならないと、僕の先生が言ったよ」。僕の先生とはトルストイだと考えられている。トルストイは「神を知ることは神の意志を生きること」だとして「協和と真実と愛」を説いた。ジョバンニは言う。「みんなが自分の神様がほんとの神様だと言うだろう、けれども、お互いに他の神様を信じる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう」。寛容と共存の大切さを語っている
▼「ほんとうの幸を探しに僕たちはどこまでも一緒に進んでいこう」とジョバンニは叫ぶ。「世界全体が幸せでない限り個人の幸福はありえない」とは賢治の言葉。さしずめ、格差社会への批判ともなり得る言葉である
▼賢治もトルストイも不遇の中で悩み、自己矛盾を抱えながら、誠実に理想を追い求めたのであった。