行雲流水
2015年6月11日(木)8:59
「先島の海」(行雲流水)
宮古島と沖縄本島との間に広がる海。何でもない海のように見えるが、地政学的には問題含みの海のようだ。明治初期には清国と日本の国境線が引かれようとしたこともある
▼鹿児島から台湾までの間に点在する南西諸島。そのなかで、島嶼(とうしょ)間の距離が最も長いのは宮古島・沖縄本島間の約300㌔。直進する無線通信用マイクロ波が地球表面の曲率半径にひっかかって届かない唯一の区間だという
▼近年、この海を通って太平洋へ出て行く中国軍艦の動きが活発化している。国連海洋法条約は、排他的経済水域における無害通航権を認めている。つまり、海洋資源の調査や取得などをしない限り、この海は「公海」扱いだ。単なる通航は国際法違反ではない
▼とはいえ、疑念も残る。先月末中国が発表した国防白書は「海洋強国をめざす」と明記。従来の「近海防御」を「近海防御と遠海保護の結合型」へと転換している
▼南シナ海での岩礁埋め立て問題と考え合わせると、海洋覇権への道を歩む覚悟と自信を示しているようにも思える。先月中旬、ケリー国務長官は習近平主席に面会し、自重を促したばかりだ。現在訪米中の中国軍首脳がどんな発言をするか、米中協議を注目したい
▼中国海軍が「宮古・沖縄間の海は太平洋へ出るための生命線だ」と考えていないことを期待したい。人民日報は「沖縄県の帰属は現在も日中間で未定だ」とする論文を掲載しているともいう(「週刊文春」4月23日号)。将来、この海をめぐっていざこざが起こらないことを祈りたい。