【私見公論】伊良部島に国立教育機関「海上技術短期大学校」誘致を/仲里雅彦
伊良部大橋開通後の将来像を問うと「このままだと佐良浜は30年後には無くなるよ」「なぜ? 人がいなくなるからさ」と話す地元リーダーの声は危機感にあふれていた。確かに最大1000人を超えた佐良浜小の生徒数はピーク時の1割、100人余と人口流出・少子化で年々減少している。佐良浜の人口は2860人、1世帯あたりの人員数が1・99人と市平均2・17人を下回り、人口減少と独居老人が多いという最も深刻な状況に置かれている。合併前の旧町村も同様な問題を抱え苦しんでいるが、想定を超える衝撃的な声に応えるべく、島のルーツ・地域資源・将来性を見据えた創世事業を提案する。
100年以上の歴史を持つ「カツオ一本釣り」は島の経済を長い間支え、南方漁の最盛当時から日本初のパヤオ(浮き漁礁)を島の近海に設置し、本格的にパヤオ漁を始めたのも佐良浜漁民である。カツオ漁が全国的に減少を続ける中、新しい船を加え4隻のカツオ船が操業し伝統の火を絶やさないという強い意志は健在であり、海を生業(なりわい)としてきた地域であることから海との関わりを活性化の基本とすることに異論は無いと考える。
国の外郭団体「独立行政法人海技教育機構」は、航海士や機関士を養成する目的で、全国に海技大学校1校、海上技術短期大学校3校、海上技術学校4校を運営しているが沖縄には設置されていない。学生は全国から募集し寮生活により経済的負担も少なく勉学に専念できる環境が整っており志願者が多い。一方、船員の高齢化と人材不足は深刻で、「養成定員をもっと増やせないか」と船員確保に向けた取り組み強化が求められている。
このような状況を踏まえ、船員を育成する国立教育機関「海上技術短期大学校(高卒対象)」を伊良部島に誘致することを提案したい。海上技術短期大学校の誘致効果として、①人口減少対策 ②国費投入および消費効果による経済効果 ③廃校予定施設の有効活用 ④高校卒業後の進学先が島にあることの有利性 ⑤全国から若者を呼び込み活性化が想定される。市は佐良浜・伊良部小中学校を統廃合する計画を進め、県は伊良部高校を恒常的な定員割れから宮古高校に統合を決定し、子供人口は回復しないと判断している。この廃校施設を大学施設や学生寮・教員住宅として有効に活用できることも大きなメリットである。
周囲を海に囲まれ、年間を通して海で活動できる環境は本土ではできないことであり、リゾート感あふれる宮古島で資格取得ができることは、島のブランド力を高めることにもつながる。また、内外の若者たちの学ぶ場を創設することは、二次的な効果として、島全体に若者人口を増やし、若々しく活気のある社会への転換も期待できる。
多額の渡航・生活費をかけて進学する者。金銭的な理由で進学を断念する者。資格を取るために多額の借金を作ってでも進学する者。このような現状と切実な声に押され、専門学校・大学誘致を市に要請した観光協会長は、「経済的負担を軽くし、人口流出を防ぎ、地元で専門的な知識を学び、地元で就職できるシステムが構築できれば地域活性化につながる」と提案している。
昨年5月、日本創世会議が全国の半数市町村は将来消滅するという「消滅可能性都市」は大きな反響を呼び、人口減少対策は自治体の最重要課題で生き残りを掛けた戦いが始まっている。長野県では高校に新たに国際観光科を設置し、全国募集で若者を呼び込み活性化を目指すなど、人材流入による地方創世が注目されている。
進学先が島内にあることの経済的負担の大幅な軽減、島外からの学生および職員の受け入れによる消費経済効果、この二つの点に限ってみても、島の活性化への多大な貢献となりうるのではないだろうか。国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を受け、全ての自治体は来年3月末までに「地方創世に関する総合戦略」を策定することになっており、国立教育機関の誘致でサシバのように舞い上昇する伊良部島とするため、実効性のある戦略策定と島で真剣に向き合う「熱い人々」を支援する行政マンに期待したい。