キビ振興と宮古の農業振興を考える④/宮城克浩
農業振興に向けたサトウキビ産業の役割
これまで宮古のサトウキビ生産向上に向けた具体的方策の提案と、宮古の農業振興にとってのサトウキビ生産のあり方について述べてきた。最終回である今回は、これまでのまとめとして宮古の農業振興に向けたサトウキビ産業の役割について述べようと思う。
2013年度の統計によると、宮古のサトウキビは栽培面積7582㌶、収穫面積4859㌶、生産農家数5384戸、その生産額は約71億円であり、生産額2位の肉用牛(約31億円)、3位の葉たばこ(約24億円)を大きく引き離し、まさに宮古の基幹的農作物である。
耕地面積に占めるサトウキビ栽培面積の割合は64%と高く、宮古の農業振興にとって地域の基幹産業としての役割は大きい。基幹産業の役割として、第一には産業を支えるサトウキビ生産者の生活の安定を担保することであり、それには生活するための収入の確保が必要である。2年に1回収穫する夏植えから毎年収穫ができて低コストな株出しへの移行は、収入確保の面から見て有効である。比較的反収の多い夏植えから株出しへ移行する場合、十分な収入を確保する上で前提となるのは株出し反収の向上であり、生産者の日頃の栽培管理が重要であることは言うまでもない。所得向上の面では、他の作物との輪作も有効である。
土地利用型作物のカンショは宮古の島尻マージ土壌栽培に向き、サトウキビとの相性もよく有望であろう。またサトウキビ収穫後の夏植え前の圃場を活用した蕎麦の栽培も検討に値する。年内操業による収穫の前進化やサトウキビ収穫の機械化等によって冬春期の労働競合が緩和されることで、カボチャなどの冬春期出荷用野菜との輪作機会も増えることが期待される。
サトウキビ生産者の高齢化や後継者不足が課題となっている今だからこそ、収入アップが望める園芸作物との輪作は、若い世代の後継者育成にも役立つものと思う。また宮古は本土の端境期をねらった冬春期出荷用野菜や市場価格の高いマンゴー生産が盛んな地域でもある。
基幹産業には、地域の農業生産者の所得向上に貢献することも求められていると考えており、労働競合の緩和は、これらの農作物の振興に貢献するものと思う。さらに前回コラムで述べた夏植え・秋収穫株出し栽培が現実化され、さらなる収穫の前進化と増産による収穫期間の拡張をとおして、サトウキビの梢頭部が肉用牛生産者へ粗飼料として長期的に安定供給することができれば畜産振興にも貢献する。また収穫期間の拡張は、製糖産業に従事する労働者の雇用の創出にもつながり、サトウキビが地域を活性化する、まさに基幹産業になりうるものと思う。
一方では基幹産業を支える製糖工場の安定的存続も重要である。生産農家が高糖度で品質の高いサトウキビを製糖原料として安定的に搬入することが製糖工場の安定存続にとって必要不可欠であることは言うまでもない。その他、製糖工場としての収益向上の方策が必要である。その要点は、サトウキビの高度利用(多段階利用)にあると言われている。
サトウキビには多様な価値の素材が含まれている。蔗汁からは砂糖、エタノールが生産でき、葉梢や茎皮表面には消臭剤にも利用されているワックスがあり、砂糖歩留まりを低下させトラッシュ扱いされている梢頭部は畜産の粗飼料としての価値がある。搾汁残渣であるバガスは製糖の際に燃焼利用され、砂糖製造エネルギーの完全自給に役立っているほか、堆肥の材料としても利用されている。さらにバガス燃焼で得られるエネルギーから発電・売電も可能であり、製糖期間の拡張によって長期的に売電することができれば安定的な収入源となりうる。砂糖以外に素材を商品化して高付加価値を生み出していくことが製糖工場の収益向上、ひいては製糖産業の安定的存続につながっていくものと思う。
これまで述べてきた多段階利用や前回コラムで述べた「砂糖およびエタノールの逆転生産プロセス」等については、前回コラムで紹介した杉本明博士の執筆による「砂糖類・でん粉情報2015年5月号:農畜産業振興機構」の調査・報告を参考にしたものであるので、詳細については同書を参照していただきたい。最後に、これまで述べてきたことが宮古地域の農業振興について考える一助になれば幸いに思う。