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行雲流水
2016年3月8日(火)9:01

【行雲流水】昭和からの遺言

 北海道の富良野を舞台に、親子愛や登場人物の成長、大自然の中での生活を叙情豊かに描く『北の国から』の脚本を書いた倉本聰が『昭和からの遺言』を出版した。氏の、昭和についての記述には、同時代を生きてきた者として共感することが多い

▼時代は何もない時代から、大量生産・大量消費の時代に変わり、人は「我慢すること」を忘れ、欲望を肥大化させた。資本の論理に従って、浪費が善で節約が悪になった。効率とスピードが尊ばれ、金が全能の神となった。氏は語る。「僕らは貧しく、豊かでなかったが、何となく今より幸せだった気がする」

▼僕が子どもの頃、便所は屋外にあって、上から木の枝が垂れていた。夜は幽霊が出そうで怖かったが、母が番をしてくれたので、快便が保障された。見上げると満天の星がきらめいていた

▼筆者は書く。「闇は神聖かつ尊厳なものである」。闇には虫の声が聞こえ、草の匂いがする。文明は闇を征服し、絢爛(けんらん)を求め、派手を競い、わび・さび・みやび・奥ゆかしさを放棄して、恥も外聞もなく光で染めあげた。その結果静謐(せいひつ)・安定を奪って、少年たちは心を崩した

▼すべてが今より深かった。森のみどりが深かった。人の交わりも深かった。おやじの言葉が深かった。政治家の一言が深かった。最初の接吻が深かった。水や風を深くみる。すると稲穂の黄色が深くなる。そして、あらゆるものが幸せ色に輝いて見える

▼これは貧困賛歌ではない。いろいろな闇を知って、未来を展望するということである。

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