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行雲流水
2016年3月15日(火)9:01

【行雲流水】国家の品格

 数学者の藤原正彦は、藤原てい、新田次郎夫妻の次男である。藤原ていは、満州に突然ソ連が攻め込んできたとき、脱出して3人の子を連れて帰国する。その生死の境を乗り越えてきた苛酷な体験を戦後『流れる星は生きている』に書いてベストセラーになる

▼新田次郎は映画『八甲田山』の原作である『八甲田山死の彷徨』を書いた作家である。人間と社会を厳しく見つめてきた新田が息子正彦に指導したことは武士道「卑怯者になるな」ということであった

▼正彦の『国家の品格』は200万部をこえるベストセラーとなった。「論理より情緒」、敗者への共感、弱者への同情など「惻隠(そくいん)の情」の重要さを主張、自由や平等、民主主義やグローバリズム等の理屈より現実を注視、論を展開している

▼著者は書く。最も重要なことは論理では説明できない。たとえば、「野に咲くスミレはなぜ美しいか」ということは論理では説明できない。しかし、それは現実に美しい。それを感じ取る情緒が重要である。数学でも正しいか正しくないか論理的に判定できない命題があることが「不確定性定理」で証明されている

▼グローバリズムは、冷戦後の世界制覇を狙うアメリカの戦略に過ぎない。それは経済に止まらず文化や社会のアメリカ化、画一化をもたらす。そのイデオロギーの中心をなす市場原理は、格差を極端に広げ、世界を不安定なものにしている

▼独自の品格ある文化国家を築くことが肝要で、その際「情緒」や「惻隠」の重要さを強調する論考がユニークである。

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