行雲流水
2016年9月6日(火)9:01
【行雲流水】「ルイ・アラゴンの詩」
「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」。フランスの詩人ルイ・アラゴンの詩の中の言葉である
▼この詩は、ナチスの弾圧によりストラスブール大学の教授・学生が逮捕・銃殺されたことを悼み、書かれた詩の一節である。前記のフレーズに続いて「彼らはなおも苦難のなかで、大学を再開した」。この詩を歌詞にした「ストラスブール大学のうた」は今も愛唱されている
▼第1次大戦が終わると、価値の混乱が起こり、不安と絶望と混乱の中で、詩人は悩む。そんなとき、アラゴンはエルザと出会う。エルザは、未来への希望を重視するよう、アラゴンを励ます
▼この出会いは運命的で、アラゴンはエルザに多くの詩を捧げている。「エルザにならどんな言葉も大げさ過ぎはしない/おれは夢みるのだ、雲の衣に包まれたエルザを/そんなかの女を見たら、翼をもった天使たちもねたみ羨むだろう」
▼第2次大戦中、ナチス・ドイツに占領された祖国フランスで、アラゴンは、レジスタンス(抵抗運動)を、詩で励ます。「飛ぶ鳥たちの影で荒れ狂う海/ふと、晴れ間がのぞけば、お前の眼の色も変わる/夏は雲をちぎって、天使たちの衣を仕立てる/空は麦畑の上にある時、この上なく青い」。「鳥」は、ナチスの検閲を逃れるための、爆撃機の隠喩である。「麦畑」は人々の暮らしだろう
▼この詩は、教育の本質、人間モラルの根本を考えさせる。社会の中で、「希望を語っているだろうか」、「希望を語るにふさわしい自分になっているだろうか」と自問させる。