行雲流水
2016年12月27日(火)9:01
【行雲流水】(『第九』よ響け)
年末の風物詩、ベートーベンの第九交響曲(合唱つき)が各地で演奏されている。それは楽曲として優れているだけでなく、ベートーベンの真摯な生き方が曲に反映されていて人を感動させるからであろう
▼ロマンロランは彼をモデルにした『ジャンクリストフ』を、「悩み、闘い、それに打ち勝つ自由な魂」に捧げて執筆した
▼ベートーベンは経済的に恵まれず、父親は酒乱であった。さらに耳が聞こえなくなるという音楽家にとって致命的ともいえる悲運に襲われたが、彼は使命感と不屈の精神で偉大な作品を創り続けた。ロマンロランは『ベートーベンの生涯』のなかでも彼の根本精神を「苦悩をつきぬけて歓喜に至る」と表現している
▼その高い精神性の故に「第九」は理想追求の象徴として演奏されてきた。東西ドイツが統一される前夜には祝典曲として演奏された。長野オリンピックの開会式では五大陸を結んで、演奏、合唱がなされ、その映像が全世界に中継された
▼ところで、今日の世界は、弱肉強食の新自由主義的グローバリズムの横行で、明るい未来が展望し難い。人々の不満や怒りが鬱積し、戦争や紛争、テロも絶えることがない
▼そうした中で、「第九」の終楽章はドイツの詩人シラーの詩「歓喜に寄す」を歌う。「おお、友よ、このような調べではなく、もっと快い、歓喜に満ちた歌を歌おうではないか」(この部分はベートーベンの作詞)。「汝の神秘な力は、引き裂かれたものを再び結びつけ、汝の優しい翼の憩うところ、人々はみな兄妹となる」。