【私見公論】「急増するアジアクルーズ需要と平良港」/林 輝幸
昨年10月から15年ぶりに宮古島の平良港湾事務所に勤務することになりました。久しぶりの宮古島は、市町村が合併し、伊良部大橋が開通するなど大きく様変わりしていました。特に驚いたのは、15年前は確か10回程度の寄港があり、その後は年数回程度の寄港しかなかったと記憶していたクルーズ船の寄港が昨年は86回にも増えていたことです。さらに今年は3月末時点の予約で130回の寄港が予定されています。私は平良港の整備を担当していることから平良港の整備と年々伸びゆくクルーズ需要やその経済効果について、本紙面を借りてお知らせしたいと考えています。
このクルーズ需要の伸びを分析してみると2005年からの10年間で世界のクルーズ人口は1374万人から約1・7倍の2320万人に成長した。特に伸びが高いのはアジアであり、10年間で約2・7倍の208万人に達しています。中国では2012年から3年で25万人が4・5倍の112万人に達し、今後も中国人の海外旅行者は増加すると想定され、クルーズ旅行は増加していくと容易に想像できます。実際に中国政府は2020年には自国のクルーズ人口は450万人と公表されています。
この背景には、①近年の経済発展とパスポート取得の規制緩和により中国人の多くが海外旅行に出かけるようになったこと(2015年に1億900万人に達した)。②クルーズ船社が1泊1万円以下のショートクルーズを組み、空路よりも低廉な旅行を多く提供していることであろう。多くの日本人は、クルーズ旅行は1泊当たり5万円~1千万円の裕福な層が利用すると想像しがちであるが、世界のクルーズの8割は低廉な旅行が主流となり、多くの船社がスケールメリットを活かした、より大型のクルーズ船を投入する傾向にあります。
このような背景で平良港へ寄港するクルーズ船も急増していますが、現在の平良港では、下崎地区の岸壁-10mにおいて約5万㌧級のクルーズ船までしか接岸できません。また、同地区は砂・砂利、スクラップを扱っており、強風時は粉塵等の問題もあります。加えて市街地からも遠く港の玄関口としてふさわしい環境とは言えない状況です。加えて寄港が急増していることで本来利用している砂・砂利の運搬船はその間は沖待をしている状況となり、利用者からは改善の要望が出されています。この課題に対応するため、事務所では現在漲水地区に整備中の岸壁を当初計画より延長し、年内に暫定供用することにしています。これにより定期貨物船が利用しない日に5万㌧級のクルーズ船の受入が可能となります。
その他にも平良港でのクルーズ船受入にはさまざまな課題があり、平成27年からの定期クルーズ対応では、行政に加えて観光協会やバス会社、タクシー協会等の民間団体も参加し平成20年に設立した「宮古島クルーズ客船誘致・受入環境整備連絡協議会」が官民連携で対応してきました。特に上陸後の2次交通不足への対応や両替、Wi-Fi環境等のソフト面の対応は喫緊の課題として、バスの増車、両替機の設置、Wi-Fi環境の整備等を実施しているところです。一方、寄港の効果として平成27年は13回の寄港で約3・9億円の消費効果があり、昨年は86回で少なくとも40億円以上の消費効果があったと推測されます。平良港に寄港するクルーズ船は年々大型化してきていることを受けさらなる課題が見えてきました。次回は新たな課題と対策について紹介します。
林 輝幸(はやし・てるゆき)1959年生まれ。福岡県出身。1977年旧運輸省採用。2002年内閣府沖縄総合事務局平良港湾事務所工務課長。その後、(独)鉄道・運輸機構、(国研)港湾空港技術研究所研究計画官を経て、16年10月より内閣府沖縄総合事務局平良港湾事務所長就任。宮古島市地方港湾審議委員会委員。