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社会・全般
【行雲流水】(優しい語り手)
2018年ノーベル文学賞を受賞したポーランドの作家オルガ・トカルチュクの記念講演「優しい語り手」が公開された
▼あなたがまだ生まれていないから寂しかったの。あなたを恋しがっていたのよ」。「まだ生まれてないのに、どうして、私が恋しかったの」。母は答えた。「もし、誰かを恋しく思うなら、その誰かは、もういるのよ」―母は私が生まれる前から私をこの世に存在させてくれていた―
▼この会話の記憶が、話し手の一生を支えたという。豊かな感性と想像力をもち、思いやりと共感を体現する作者の原点である
▼作者は語る。知識を得ることは人類の進歩をもたらすと考えられてきた。しかし高度情報化社会のもたらしたものは、団結と普及と解放の代わりに、差別化と分断と、排他主義である。私たちは見逃している。世界が事物と出来事の集積になりつつあることを。生命のない空間になりつつあることを
▼私たちに必要なものは、私(一人称)やあなた(二人称)、彼(三人称)ではなく、四人称とも言える普遍的な優しさである。優しさは、関係するすべてに人格を与える技術、共感する技術である。それは世界を命ある、生きている、結び合い協力し合うものにする
▼現今の気候と政治の危機は、経済と社会と世界観による結果である。欲深さ、自然への敬意の欠如、エゴイズム、想像力の欠如、きりのない競争、責任感の欠如―こういったことが、世界を細かく切断し、使い捨て、破壊しうる、ただの物のレベルに引き下げている。(空)