【前市長逮捕の背景】
陸自配備で千代田に固執/発言変遷、虚偽の主張も
前宮古島市長の下地敏彦容疑者が12日に収賄容疑で逮捕されたことを受けて、13日の県内各紙の1面は「前市長逮捕」の見出しが並び、衝撃の大きさを物語った。
コンビニの入り口付近にある販売用の新聞棚に並んだ新聞紙面は、すべて下地容疑者の逮捕を報じる内容で、訪れた客も各社の内容を読み比べようと、複数の新聞を買い求める姿が見られた。
複数の新聞を購入した男性は「昨日の夜からテレビでは見ているが、細かい内容までは分からないので、これから新聞をゆっくり読んで確認したい」と話した。
前市長の下地敏彦容疑者逮捕の衝撃は、各方面に大きなインパクトを与えている。千代田カントリークラブへの陸自配備をめぐっては、以前から下地容疑者の言動を踏まえていろいろなうわさがあった。その理由の一つに、下地容疑者が常に配備地について千代田にこだわっていたこともあった。
■千代田への執着
2015年5月に防衛省側が配備候補地として、「千代田」と「旧大福牧場」の2カ所を市に提示した際にも、下地容疑者は虚偽の答弁を行っている。
候補地を提示された当時、記者が下地容疑者に対して「(今回の提示以前に)市側から千代田を候補地として(防衛省側に)提案したのか」と質問したが、その時は明確に否定。その後に再確認した際にも否定し続けた。
しかし、翌年16年の市議会9月定例会の一般質問で、下地容疑者はこれまでの見解を覆し、15年5月以前に沖縄防衛局側と話し合いが持たれていたことを認めた。
その時に市側は、配備地については一カ所集中ではなく、分散型にすることを求め、その候補地として「千代田」を提案していたことが判明した。
防衛局側は「旧大福牧場」ですべての機能を集約した配備内容を市側に示していたが、下地容疑者はあえて分散型で隊舎等を分けて配備すること打診していた。
結局、そうした市側の求めに配慮する形で、当時の防衛大臣は候補地を「旧大福牧場」と「千代田」の2カ所を示した。
しかし、翌年(16年)に発覚した地下水問題により防衛省は「旧大福牧場」を断念。それに伴い、下地容疑者から求められていた「千代田」を中心に整備していくこととなった。
■地下水問題
候補地となった「旧大福牧場」が断念となった経緯についても、多くの問題が起こっていた。
同地区における駐屯地建設計画について、協議した市地下水審議会専門部会の議事録の公開を当時、下地容疑者はかたくなに拒否し続けた。
議事録の公開については、市議会でも速やかな公開を求める請願書が全会一致で採択されているにもかかわらず下地容疑者は、議会や市民団体からの開示請求を拒否し続けた。
議事録以外でも、学術部会が審議した結果については当時、報告書が存在し、市側に提出されていた。
報告書の存在を事前に知っていた本紙は、その存在について下地容疑者と当時の長濱政治副市長に確認しても「完成していない」「見てもいない」と虚偽の答弁を繰り返した。
結局、その証拠を突き付けた途端これまでの説明を覆し、その存在を認めた。
実際の報告書では、旧大福牧場周辺での建設については「地下水への影響から認められない」と結論付けていた。
■報告書改ざん
さらに、本紙はこの報告書について、下地容疑者と長濱前副市長が連名で同部会の部会長に内容の修正依頼をして、改ざんしようとしていたことも報道。大きな問題に発展した。
市側の修正案は、都合の悪い内容が記された項目の全文削除や一部文言修正が5カ所。さらに5カ所で文言を追加していた。
こうした市の行動に対して当時の部会長は「地下水を守るために努力している部会の存在をないがしろにしている」と、怒りを表していた。
■見失った役割
当時、同学術部会の報告書の存在を市民やマスコミにひた隠しにしながら虚偽の説明を繰り返し、その裏では島民の命でもある地下水保全を求めた報告書の内容の改ざんを模索。
陸自駐屯地配備の候補地についても「千代田」にこだわり、それを防衛省側に打診していながら、その事実を隠そうとしていた。
今回の逮捕は、当時の下地容疑者が市民の命と生活、財産を守るべき役割を見失っていたことを物語っている。
今年1月の市長選で下地容疑者を支持したある建設業者は「長期政権と圧倒的与党多数による政治で、おかしくなってしまった部分も多い。われわれも反省すべきことはいろいろあるが、何から始めて良いかまだ分からない。宮古の政治は若い世代にバトンタッチする時期に来ていると思う」と話した。
(垣花 尚)