『歌の原初へ』を出版/居駒明大教授
狩俣の神歌と神話研究
明治大学経営学部教授で、約26年間にわたり狩俣集落の神歌と神話について研究を続けている居駒永幸氏(文学博士・日本古代文学専攻)が4月に「歌の原初へ~宮古島狩俣の神歌と神話~」(出版元・おうふう)を上梓した。同書は全372ページで、居駒氏の長年にわたる狩俣集落での研究論文と講演録、エッセーに加え、「狩俣の神歌キーワード」などで編集構成されている。
居駒教授によれば、1970~80年代にかけて、日本古代近代文学の学会では沖縄・奄美に関する研究が注目されるようになり、当時、大学院で研究を続けていた生駒氏は「古日本文学発生論」(藤井貞和著・1978年)や「古代歌謡論」(古橋信孝著・1981年)に収められていた狩俣関係の論文を読み、狩俣の神歌に関心を抱いた。88年に初めて宮古島を訪れて以降、「ウヤガン」「ナツブーイ」の2大祭祀を中心に調査研究を開始した。
89年に初めてウヤガンを見た際、これまで「神話」というものが歌によって表現されるものではないとの認識を大きく改めるきっかけになったという。さながら「叙事詩」のように「アーグヌシュー」(歌の主)が2時間もの神歌を暗記し詠むことに大きな衝撃を受けた。以来、全国でも類例のない祭祀を研究することで、一般的な日本の「神話」が外来からの伝承であるのに対し、狩俣には神話の原初の形が残っていることを発見し、研究対象とすることを決めたのだという。
居駒氏は「調査研究を本格的に開始したのは、97年1月で途絶えてしまったウヤガンを見たことだった」と説明した。同時に谷川健一氏、佐渡山安公氏が中心となって、同祭祀の復活を目指して発足した「宮古島の神と森を考える会」に出席し、研究成果の講演やシンポジウムを引き受けるようになった。
あるシンポジウムで知り合った地元の初老夫婦が「もっと話しを聞きたい」と申し出て、交流を始めたが、同著の出版にあたり居駒氏は「単に学術研究論文集としてではなく、自分にも狩俣の神々や研究に協力してくれた人々に対して何かできる役割があるのではないか」と考え、第1、2章を研究論文、第3章を講演録、第4章をエッセーという風に構成したのだと説明する。
居駒氏は「狩俣の神歌や神話に関心を持っている人たちには、ぜひ読んで頂きたい。私自身も狩俣の神に引き寄せられた一人なのかも知れない」と話した。同著は市内各書店で発売を開始しているが、在庫がない場合は「宮古島の神と森を考える会事務局」(76・2266)でも販売している。